ピタゴラスイッチに,なぜはまるのか

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NHK教育の幼児番組「ピタゴラスイッチ」は,大人にも根強い人気があるようです.それも,特に技術系の人々,情報系の人々に人気が高いように思います.現に,組み込みソフトウェア技術者の方々の中にも「あれ好きなんですよ~」という人が多いです.

実は私も,この番組を好きなんですが,...で,なんで(技術系,情報系の人々は)この番組を好きなんだろう? というのを,ちょっと考えてみました.

他人を分析する前に,まず自分の話から.

昔,新しく始まった「にほんごであそぼ」という番組にはまりました.狂言師の野村萬斎さん(この人は,表現力がすごい,すてきな人です)と子供たちが演じる「ややこしや~」「かみなり(ピカー,ゴロゴロゴロ)」「風の又三郎(どっどど どどーど)」に熱を上げていました.そのとき,ピタゴラスイッチは「ああ,あの,パチンコ玉みたいなのがコロコロ転がるだけの番組でしょ」と思っていました.

確かに,パチンコ玉コロコロ,も楽しいんです.リコーダの音色の牧歌的な雰囲気の中で,玉が転がっては周りのものを動かし,その動いたものがまた何かを動かし,最終的にゴールにたどり着いて「♪ピ タッゴ ラッス イッ チ♪」と大団円(これは「ピタゴラ装置」と呼ばれるものだそうです).楽しいし小気味よい.でも,印象としては,「昔セサミ・ストリートでやっていた,“A”などの文字のパフォーマンスの実写版でしょ~」くらいに思っていました.

衝撃的だったのは「アルゴリズムたいそう」「アルゴリズムこうしん」です.一度見て,「な,なにこれ?!」 えーと,どうしてぶつからないんだろう,こういう動きの組み合わせは,どうやって構築していくんだろう,と思いました.次に,インターネットで検索してメロディーなどを流しているサイトを見つけ(ココです),動きとメロディーを確認して譜面に起こしました.それから,楽譜を眺めながらしょっちゅう小声で歌う日々が始まり….

そして知ったのです.これは,演じている「いつもここから」の2人が作ったものではなく,佐藤雅彦研究室が作ったものだと.佐藤雅彦って何者? 研究室,って,研究対象になるほどユニークな人なの? ...で,調べてみると,なんと佐藤雅彦氏はCF(コマーシャル・フィルム)プランナーではないですか.もともと広告代理店に所属していて,「バザールでござーる」とか「ドンタコス」とかのヒットを飛ばした人じゃないですか.さらに言うと,「だんご三兄弟」を作った人でもあるのです.今は慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスで教鞭を取っており,ゼミも持っています(ここで「研究室」の謎が解けました).
ああ,あの人か! 私が広告代理店を受けに行ったとき,会社説明の資料に大きくインタビューで載っていた人じゃないか!

佐藤雅彦氏は,「ピタゴラスイッチ」という番組そのものをプロデュースしていました.「走って文字」とか,「フレーミー」とか,「なーにしてる人?」とか,ぜーんぶ考えているのね.たぶん.

佐藤氏の執筆したエッセイなどを読みました.「クリック!」とか,「日本のスイッチ」とか,あれこれ興味深いことが書いてありました.なんというか,私の頭の中の使われていなかった部分を活性化してくれるような,新鮮な刺激がありました.

で,そんなとき,ギンザ・グラフィック・ギャラリーで「佐藤雅彦研究室展」という展示があったので,見に行きました.そのころ私は産休中で,生後2ヵ月に満たない赤ん坊を抱えていたのですが,連れて見にいきましたよ.で,無理をして見に行った価値がありました.

佐藤氏は,「人が“分かる”ということ」に興味があるそうです.何を見せたら,どう見せたら分かるのか? と考え続けて,コマーシャルも作ってきたし,今の研究も続けているようです....これって,今の私(読者に,分かる記事を提供する役割)にもそのまま使える考え方なのではないか.そう感じて,私はますます佐藤氏に敬意を払うようになりました.

相手に伝えること.それは,偉ぶることではなく,相手のほしい情報を分かる形で提供することだと思います.だからこそ,佐藤氏の「分かる」コマーシャルは,多くの人の印象に残り,また支持されてきたのだと思います.

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話が長くなりましたが,技術者の方々が「ピタゴラスイッチ(あるいはピタゴラ装置?)」に好感を持つのは,きっと私とは違う理由だと思います.
動きがある.しかけがある.からくり時計が面白いように,玉がコロコロ転がり,狙い通りのところにぴったり入って「♪ピ タッゴ ラッス イッ チ♪」となるのは,予定調和的かもしれませんが安心感と小気味よさがあります.これは水戸黄門が長寿番組になるのと同じ理屈で,大人から子供まで,技術者いかんに関わらず,みなに共通する感覚かと思います.

そして,それを見ていて,「どうにかして,同じようなものを作りたい」と思う人がいます(うちの5歳のRもそうです).そういう,工作の喜びを知っている人は,ピタゴラ装置にはまるでしょう.
また,情報操作を連想する人もいます(ああいうふうに,不具合なくぴったりと完結すればいいなぁ...?).そういう人も,「あるべき姿」をピタゴラ装置に重ね合わせるでしょう.

...えーと,まだきちんと分析できていないので,これ以上はコメントできないのですが... これからも,「ピタゴラスイッチ」の行方を興味深く見守っていきたいと思います.

# と言いつつ,ふだんめったに見られないんですけどね....

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このページは、(志)が2006年12月28日 12:06に書いたブログ記事です。

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