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● メカトロニクスのソフトウェア技術者とは何だろう
メカトロニクス・システムの情報的な基礎を支えるのが，メカトロニクス・ソフトウェアの技術者です．
パソコン向けの業務ソフトや業務の自動化・解析ソフトなど，IT（information technology）系注2のソフトウェアと比較すると，メカトロニクス・システムに組み込むソフトウェアは，次の四つの基本要件を満たす必要があります．
- リアルタイム制御：IT系ソフトウェアでも順序はたいせつだが，μs（マイクロ秒）の範囲までは規定しない
- 自然法則：IT系ソフトウェアの世界は基本的に人間の論理だけで完結しているので，自然法則を考える必要はない
- 組み込み拘束：IT系ソフトウェアと異なり，メモリ不足にハードウェアの増設で対処することはできない
- 信頼性：IT系ソフトウェアのような「バグが発覚したらService Pack」という手法は，通常は使えない
このような条件のため，IT系のソフトウェアを作れる技術や経験だけでは，メカトロニクスのソフトウェアは作れないのです．Cプログラムのmain関数が終了してしまうプログラムを書いて何が悪いのかわからない注3ITプログラマはどこにでもいます（これは組み込み拘束の常識問題の一つ）．このようなIT技術者がメカトロニクス開発に派遣されると，現場はたいへんなことになります．こうしてIT系ソフトウェアとは性質の異なるメカトロニクス・ソフトウェアを開発する技術者には，ソフトウェアに加えて機械や電子回路の知識，および技術が必須になります．さらに上級の技術者には，明文化できない開発技能と呼ばれるものが求められます．四つの基本要件を満たす設計を行うには，個別技術を熟知するだけでは不足です．また，これからは海外の企業や技術者との連携が必要になるので，語学力も欲しくなります．
注2；「IT系ソフトウェア」とは，情報技術に特化した（自然現象などを直接扱うことがない）ソフトウェアを指す．文書作成ソフトウェアや会社の業務処理関連（伝票処理，受発注処理など）のソフトウェアがこれにあたる．中でも業務処理関連のソフトウェアを「ビジネス・アプリケーション・ソフトウェア」と呼ぶ．一方，機器に組み込まれたソフトウェア（多くの場合，リアルタイム処理を要求される）を総称して「組み込みソフトウェア」と呼ぶ．大規模なIT系システムでは，表層部はIT系であっても，内部にはネットワークを制御するリアルタイム組み込みソフトウェアが使われている場合もある．
注3；main関数が終了すると，機器が制御不能になる．
