キャリア・パスをイメージしてスキル・アップを図ろう ――楽しくしごとをして人生を有意義に過ごす
● 第2段階:しごとの原理と背景を学び,改善できる
次は,担当分野の原理と背景に基づいてしごとができる段階です.相手の意図が確実にわかることは重要ですが,それだけなら近い将来,AI(artificial intelligence;人工知能)ロボットにお株を奪われてしまうかもしれません.技術者ならではのしごととして,一般の知識から現行のシステムを改良する方法を見つけたり,ある特定のプログラムを発案したりしたいものです.
このためには,ソフトウェアの構造や原理を学ぶことと,応用分野の原理や背景を学ぶことの両方がたいせつです(コラム「分業に甘んじず,知識を広く持とう」を参照).ソフトウェアに関しては疑問の余地はないでしょう.ところが,応用分野の勉強については,とんでもない誤解をしてしまう傾向があるので要注意です.
例えば,油圧の制御ソフトウェア担当になったとしましょう.与えられた周期で,温度や圧力の条件をもとに次のバルブ開度を計算し,制御バルブを開くといったソフトウェアを作るわけです.こうしたしごとは,2年くらいやっているとようすがわかり,簡単な装置ならいくつかの機種を担当できるようになります.ここで,ソフトウェアの作りかたの勉強を継続することは当然なのですが,それは比較的自然かつ必然的に学ぶことができます.これと並行してなすべきことは,流体や振動の原理,油圧機器の産業としての背景などに関する学習です(コラム「勉強テーマの絞り込みのヒント――危険を学び活用する」を参照).その方法は,本や論文を読む,システム担当の人にあれこれ質問して教わるなど,多々あります.
実は,この知識を学んでも,プログラマとしての作業にはさほど貢献しません.むしろ,知らなくても「俺は油圧制御ソフトウェアのプロフェッショナルだ」という意識を持つ人は多いものです.それどころか,(ソフトウェア担当者ではなく)システム設計者から見ると,勉強してよけいな知識を持ったプログラマは,あれこれ意見を言うから扱いにくいという批判まで出かねません.「言われたものをさっさとROMに焼いて持ってこい」というシステム技術者,ハードウェア技術者は多いのです.
みなさんにとっては,ここがふんばりどころです.制御の技術,油圧の知識を持っている人からはとことん教えてもらう必要があるのです.これがないと,方式を考えるというプログラマとしての次の段階へ上がることができません.また,現行の方式でも制御方法を改善する提案が出せないものです.
さらには,適切な質問を行って必要な情報を聞き出すという技術は,インタビュー・スキルという上級ソフトウェア技術者になるための1項目です.ソフトウェア技術者は,システム技術者と違う立場でシステム開発にかかわっているわけです.そうした視点の違いが生み出す新しいアイデアを新製品に取り込むダイナミズムがあると,組織も会社も当然のように元気になります.