手巻きモータ・キットを使った「EVミニカート・レース」の開催を計画 ―― コイルの巻き方と制御プログラムが勝負を左右
CQ出版では,セミナ教材として開発した『CQブラシレス・モータ&インバータ・キット』の外販を行っています.これは,モータのコイルをみずから手巻きし,さらにインバータ基板もFETや抵抗,コンデンサ,コネクタなどをみずからはんだ付けするという,ハンドメイド・キットです(写真1).この教材には,“ものづくり”を実体験していただくという目的に加えて,モータやその制御方法の本質を直感的に理解していただきたい,という狙いがあります.
ここでは,本キットの概要と,本キットで製作するブラシレスDCモータのEVミニカートへの応用や今後の展開について紹介します.
写真1 『CQブラシレス・モータ&インバータ・キット』を組み立てたもの
●エコで注目を集めるブラシレスDCモータ
モータにはいろいろな種類がありますが,最近広く使われるようになったモータとして,「ブラシレスDCモータ」があります.『CQブラシレス・モータ&インバータ・キット』も,このブラシレスDCモータを採用しています.ブラシレスDCモータの制御は,一般にインバータ回路(直流-交流変換回路)による制御が用いられます.
このインバータの制御は,数十年前までは技術的に難しく普及が遅れていましたが,マイコン技術の進化により,今では手軽に取り扱えるようになってきました.とくに,モータの回転速度を細かく変化させる用途などでは,効率よくエコな制御ができる特徴があり,ここにきて急速に普及しています.
日本で市販されている電気自動車(EV)やハイブリッド車の駆動用モータには,ほとんどの場合,ブラシレスDCモータが採用されています.電車でもブラシレスDCモータを採用する車両が走り始めています.家電製品では,インバータ・エアコン,冷蔵庫,自動洗濯機などでいち早く採用され,最近では扇風機などでも使われたりしています.
●モータ・コイルの巻き数を多くすると回転速度は?
さて,このようなモータの中にコイルが入っているのはご存じのことでしょう.では,モータのコイルの巻き数が多いと,モータは「速く回る」と思いますか? 「遅く回る」と思いますか?
コイルの巻き数が多いと,磁力が強くなるから当然「速く回る」と考えがちですが,正解は「遅く回る」です.本キットでコイルの巻き数を変えて動作させてみると,すぐに確かめることができます.コイルの巻き数を2倍にしたら,回転数はきっちり1/2になってしまいます.
科学の実験で自分の直感的予想とは異なる結果が出て,驚くことはありませんか? 直感と異なる結果が出るのは,なんらかの要因を見落としているか,過小評価しているためです.モータも,電気と磁気の物理現象が絡まって,ちょっとだけ複雑系です.
コイルの巻き数が多くなると,確かにそこで生じる磁力は強くなりそうです.でも,コイルの巻き数が増えるほど電気抵抗は増え,流れる電流は小さくなってしまいます.「なんだ,モータはみんな,コイルの巻き数を1回にすれば,高速回転で高トルクが得られるではないか!」.でも,そうでしょうか? モータに求められているのは,高速回転・高トルクだけではありません.モータの制御が難しい理由の一つが,ここにあります.
●なぜコイルを「手巻き」すると良いのか?
そこで,モータを自分で組み立ててみることをお勧めします.モータのコイルも自分で「手巻き」し,制御回路もはんだ付けして組み立ててみましょう.できれば制御ソフトウェアも自分でプログラムしてみましょう.実際にモータをいろいろな負荷をかけて動かしてみて,モータの振る舞い(回転数や発熱),駆動基板の様子(発熱)を観察してみましょう.条件を少し変えるだけで,驚くほど振る舞いが変化したりします(図1).
コイルの巻き数を変えたり,線の太さを変えたり,放熱対策を試してみることも重要です.また,モータに要求される仕様は,用途によって異なります.例えば高効率の駆動を求められることも少なくありません.それぞれの用途に対応して,細かく制御しなくてはなりません.
図1 CQブラシレス・モータ&インバータ・キットを動かしている様子(動画)
●ブラシレスDCモータで「EVミニカート」を構築
前述のように,ブラシレスDCモータの制御方式は,インバータ制御です.ここのノウハウは,モータやインバータ基板を組み立てただけでは不十分です.制御の肝(きも)は制御ソフトウェア,つまりプログラミングにあるといっても過言ではありません.
モータの要求仕様は,その用途によって大きく変わります.つまり,モータ活用を深く学ぶためには,実際の応用事例で学ぶことが重要です.そこで,ブラシレスDCモータを組み込んで製作する『EVミニカート・キット』を開発中です(2013年夏ごろを目標に製品化を検討).これらのキットを合わせて,モータ制御の技術を楽しみながら習得していただけるのではと考えています. (2へつづく)