キャリア・パスをイメージしてスキル・アップを図ろう ――楽しくしごとをして人生を有意義に過ごす

二上貴夫

tag: 組み込み

技術解説 2004年6月14日

●○● Column ●○●
◆勉強テーマの絞り込みのヒント――危険を学び,活用する◆

 メカトロニクス・システムでは,一つの製品に適用される工業技術が多岐にわたるため,勉強すると言っても何から勉強するべきかはわかりにくいものです.もし,その点で迷っているのであれば,まずは,自分の好奇心を優先させましょう.油圧機器の制御精度が気になるなら,数学では誤差論やスプライン関数論,ソフトウェア関連なら計算方式とか計算機構などを手始めに勉強することです.糸口が一つでも見つかれば,あとは自然に関連する分野が見えてきます.

 一方,強い好奇心がわくものが見当たらない場合には,自分のしごとの中から危険なものは何かを考えて,そこから勉強を開始することが効果的です.1,000Vの高電圧,500万Paの高圧ガス,同業他社製品のメモリ破壊による事故報告など,いろいろとあるでしょう.メカトロニクス・システムは,開発や利用に少なからず危険が伴います.少し注意深く考えると,日常でも私たちは案外危険なものと背中合わせで生活しているものです.飛行機は墜落するから危険だと言って自動車で旅行する人は,年間の死亡事故率に関する統計を知らないで日常を過ごしているわけです.このことに好奇心がわいたら,統計の入門書を読むチャンスです.

 脅かすつもりはありませんが,メカトロニクス・システムの開発者は本質的に危険と付き合う必要があります.弁の制御をまちがえれば,ボイラは吹き飛びます.1950年代,試作のジェット戦闘機に人間が搭乗してテストを行い,多くの犠牲者が出た時代を描いた『THE
RIGHT STUFF』という映画がありました.その1シーンで,空軍のテスト・パイロットの奥さんが「私の友だちのご主人はニューヨークで生きるか死ぬかのビジネス・ゲームをしていると言ってるわ.けど,あんなの冗談.わが家の主人は,ほんとうに生きるか死ぬかなのよ」.これは極端な例ですが,現代においてもIT系と比べるとメカトロニクス・システムは,危険に囲まれた職場です(とはいえ,きちんと対処すれば恐れる必要はない).

 筆者は,学生時代に大規模な原子核実験の施設で卒業研究を行っていました.ある日,指導教官に用事があって施設内を探し回っていると,教官が大きな扉の横にじっと立っているのを見つけました.そちらへ近づいていくと,教官が腕を横に振って,ジェスチャをしています.なんだろうと思ってもっと近づくと,「危ない,わきへよけろ」と言っているのです.大きな扉の奥では,赤い警報ランプがチカチカと明滅しています.どうも,運転終了直後で,残留放射線が筆者の体を突き抜けていったようです.筆者はそのとき,目に見えない危険というものを実感しました.別に恐怖感があったというわけではありませんが,技術的なことをなりわいとするためには,知識がないと命がいくつあっても足りないということを実体験したわけです(幸いなことに,四半世紀たった今でも医学上の問題は出ていない).

 ここで危険を認識したので,さっそく本屋へ行って放射線取り扱い主任試験の教科書を購入し,勉強開始.数ヵ月後に初等ランクの資格を取りました.卒研を修了して就職し,数年の間は各地の原子力発電所や核医学の病院などへ行く生活が続きました.このときには,被爆の危険は当然あるものの,それに対する適切な対処ができたうえでソフトウェア開発に携われたのです.まさに勉強のおかげだったと思っています.

 放射線とは縁が切れたあとも,このときに学んだ対処方法はいまだにメカトロニクス・システムの開発やコンサルティングで利用しています.「危険を感知し,対処法を学び,別の場所でも利用する」というサイクルをまめに繰り返しています.

 こうして考えると,技術者は,興味の対象とは別に,まずはじめに自分を守る技術を学ぶべきでしょう.そして危険を御する技術を学ぶことがたいせつです.現代のメカトロニクス技術において,危険でないものはほとんどないのです.むしろ,そのままでは危険なものを適切な制御によって安全で有益なものに転換するのが現在の技術の課題と言えると思います.放射線に縁のある人は少ないでしょうが,いろいろな周波数の電磁波,超低周波数の音波,振動,気圧,温度,科学物質など,メカトロニクス・システムのソフトウェアにかかわると,日常とは異なる世界と背中合わせでしごとを行うことになります.また,日常にあっても気づかないでいた危険を知ることにもなります.

 みなさんは技術者としてこの世界とかかわりを持つことになるのですから,その世界の性質をまず学ぶ必要があります.リアルタイム処理や組み込みソフトウェアの開発に携わると,いろいろな技術領域とのかかわりが出てきます.そのたびに,ソフトウェアの見地で対象の技術領域を正確に研究し,学んでから結果を出す必要があります.

 意外なことに,ソフトウェア自体にも危険は潜んでいます.これは,「制御プログラムをまちがえて,ボイラを吹き飛ばす」といったたぐいの危険ではありません.C言語でプログラミングを行うことそのものが危険な行為注Aと最近では言われているのです.では,安全なプログラミング言語で制御プログラムを作れるのかというと,多くの場合,できないわけです.この難しい状況の中で,危険なC言語を使って安全なソフトウェアを作るというしごとが,現代のメカトロニクス・ソフトウェア技術者のミッションです.時速250kmで走る列車は危険ですし,4tの建築用鉄骨も危険です.これを扱うのが制御工学や建築工学です.同じ意味で,ソフトウェアの危険というものを知り,制御するのはメカトロニクス・ソフトウェア技術者の職務なのです.

 注A;代表的なところでは,危険と利益が同居した「ポインタ」が挙げられる.ほかにも危険は山ほどある.例えば,
       float x=100, y=0, z; z=x/y;    
 と書いた場合,どのような値がzに代入されるかは不定である.

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