エンジニアに必要なのは現状理解と判断力 ―― 人材育成の小集団活動「清水塾」を主宰する清水 洋治氏に聞く

Tech Village編集部

日本経済の立て直しが声高に叫ばれる中,開発エンジニアにとっても厳しい時期が続いている.しかし,このようなときだからこそ,自分の殻に閉じこもらず,視野を広げたりスキルを高めたりといった自己研さんが欠かせない.ここでは,若手エンジニアを対象とした人材育成の小集団活動「清水塾」を主宰しているルネサス エレクトロニクス 技術開発本部 システムコア開発統括部 CPU開発第一部 主管技師の清水 洋治氏に,これからの時代を生きるエンジニアに必要な考え方について伺った.(編集部)


写真1 ルネサス エレクトロニクス 技術開発本部 システムコア開発統括部 CPU開発第一部 主管技師の清水 洋治氏

 


―― これからのエンジニアに必要なスキルや考え方は,ずばり,何だと思いますか?

清水氏:正しく現状を理解すること,そしてすばやく判断することです.私はよく,「○か×かはっきりしろ」と言うのですが,今,現場でものを決める能力がすごく弱っていると感じます.周囲の顔を見ながら行動し,自分の頭で判断していない人が多いのではないでしょうか.私は,正しい認識とすばやい判断ができる若手エンジニアを育成したいと思い,活動しています.


―― 「清水塾」の活動について聞かせてください.

清水氏:「清水塾」は,自分でゴール設定や未来設計ができる,問題解決型の人材を育成するための塾で,私が塾長です.ルネサス エレクトロニクスの武蔵事業所の中で行っている「強い武蔵プロジェクト」という小集団活動の一つとして,2011年度から行っています.自ら応募した20~30名程度の塾生と共に,毎週金曜日の夕方,2時間ほどを使って,講義や議論を行っています.

 活動の内容としては,まず,現状理解を高めることから始めます.なぜ,われわれが今ここにいるのか,自分の部や課の役割は何なのか.それを各自,絵に描いてもらいます.今まではこうだったから,ではなく,自分たちの位置付けや市場,立ち位置を,客観的に,しっかりと考えてもらいます.この「現状を理解する」ことがいちばん重要なのです.

 現状を理解すれば,たいていの人や組織は「負けている」ということが見えてきます.ここで「勝っている」ことが分かった,という人には「おめでとう」と言っておしまいです.でも,たいていの人は負けていることに気づく.そこで,どうあるべきなのか,正しい姿を描いてもらいます.それが組織や制度を変えることであっても,戦ってでも変えたい人は一緒に戦おう,と言っています.「あるべき姿,ゴール」と現実のギャップを認識し,どうすればゴールに到達できるのかを考えて実行する.強い組織になるには,この「現状理解」→「あるべき姿」→「実行」を繰り返す(イテレーション)しかないと考えています.

 清水塾の活動としては,私のレクチャや塾生同士のディスカッションのほか,異業種の方やマーケティング・調査関係の方を呼んで話をしていただいたりしています.塾生には,「10年後にも今のしごとが残っていると思うか?」,「10年後も通用する人材になっているか?」と常に問いかけています.設計言語や特定の技術がすたれたときでも通用するために何を身に付けるべきかを考えてもらいたいのです.

 塾生は業務でも多忙な人が多いので,時には数人しか集まれないときもあるのですが,塾生には「問題があったときはいつでもおいで」と言っています.私は立場としては塾長ですが,塾生の兄貴分的な存在でありたいと思っています.


―― そのような活動を始めるに至った,きっかけを教えてください.

清水氏:私は2004年まで10年間ほど,米国シリコンバレーに駐在していました,いわば,20歳代で海外勤務となり,40歳代で帰ってきたのです.米国ではライセンスでCPUを販売する活動をしていましたが,会社の規模が小さかったので,市場調査から仕様決め,回路設計,レイアウト設計などのすべてをほぼ1人で担当していました.ところが,帰国してみると工程ごとに担当部署が分かれており,私が「1人ですべての工程を担当したい」と言っても,できるわけがない,と否定されてしまいました.このときは,組織のあり方と自分の考えるやり方のギャップに,かなり悩みました.

 そこで,やればできることを実証してやろう,と決心し,3部署の50人が4カ月かけて開発していた半導体を,2,3人の人員で1カ月で開発してみせました.もちろん,品質もひけをとりません.このときは,とにかく「やればできる」と示したい一心で,無我夢中で開発しました.この成果によって周囲から認められたのが,私の活動の始まりだと思います.

 このように,現状に対して「こうしたい,こうあるべきだ」という例は,あちこちに転がっているはずです.それを皆が変えていけば,必ず組織は強くなります.

 米国駐在時,私は「午前設計,午後営業」といった調子でしごとをしていました.このように,市場理解と設計の両天秤で働くという環境に恵まれたため,物事を広く見られるようになったと思っています.

 

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