キャリア・パスをイメージしてスキル・アップを図ろう ――楽しくしごとをして人生を有意義に過ごす
例3)手順書はよく見ていたけれど...
昨年の新人に1チップ・マイコンの組み立て実習を行ったときのことでした.筆者は講師として「この作業は,子供でもできる難易度だ.しかし,電子機器は積み木と違うから,まちがえて組み上げて電源を入れると壊れるよ.だから徹底的に慎重に作ってみなさい」と伝えてから,作業にかからせました.
数日後,新人たちの作った作品は,思ったように動作しないことが判明しました.実は,製作手順書に誤りがあったのです.手順書の図示をうのみにすると,CPUを逆に入れてしまうのです.彼らがCPU基板の電源を入れた瞬間に,それは壊れてしまったはずです.これは,手順書の欠陥ですから,いくら何でも新人の責任ではありません.しかし,筆者が予備のCPUを持っていなかったら,彼らの実習は1週間遅れになってしまったことは確実です.そのとき,いちばん損をするのは新人たちなのです.その手順書だけでなく,基板の向きや設計書なども多重にチェックするという慎重さがあれば,この問題は回避できたのです(新人にこれは要求しませんが...).
新人諸君は「徹底的に慎重に」という指示をよく守っていました.しかし,手順書を盲信するというミスを犯してしまったと言えます.これを状況や人のせいにしないで,原因を理解したり,再発しない方法を考えられるようになると,第1段階は合格,ということになります.
全社研修の後,現場に配属されると,最初は現場研修,続いてシステムの一部のプログラミングあたりからしごとが始まります.この段階は,依然として言われたことを的確に行うべき段階です.きちんと記述された設計書とプログラミング言語や開発環境の説明書を渡され,とりあえず動作するプログラムを書けるように学習と実装を繰り返します.言われた指示をきちんとこなせるようになることが当面のゴールです.
この段階の人が開発したプログラムは,メカトロニクス・ソフトウェアの四つの要件に照らすと,まだまだ十分ではありません.例えば,動作は正しいが信頼性が保証されていないソフトウェアであったり,メモリ資源をむだに消費するアルゴリズムであったりと,いろいろな問題が含まれているのが普通です.それでも,言われた範囲できちんとしたソフトウェアが書ければ,技術者としてしごとに加われるわけです.