パソコン周りのケーブル追放を目指すCertified Wireless USBの動向 ―― USBはWireless USBに置き換わるか?
● 「iMac」の登場によりブレークしたUSB
ところがここで大きな出来事が起こりました.Apple Computer社が,かつてのMacintoshの内部バスである「Nu-Bus」をいとも簡単に切り捨てて「PCI」を採用したのです.当時はユーザのリソースが全く使えなくなるとして,大論争を巻き起こしました.1998年に同社は「iMac」と呼ばれるおにぎり型をした,色も選べるカラフルなMacintoshをリリースしました.外観デザインのコピーで韓国のパソコン・メーカと裁判ざたになるほど斬新なこのMacintoshは,もう一つ重要な要素を持って市場に投入されました.それはインターフェースが「USB」しかなかったことです.2台目のMacintoshとして「iMac」を購入し,周辺機器はすでに持っているものを流用しようと考えるユーザのことなど無視するかのように,このパソコンにはUSBインターフェースしかなかったのです.もちろん,Macintoshユーザは不平不満を言いました.しかし,これは周辺機器メーカにとって,ひいてはUSBそのものの普及にとって,とても重大な出来事だったのです.
なにしろ,USBしか装備していないので,「プリンタ」や「キーボード」,「外付け記憶装置」など,iMacユーザはUSB対応の周辺機器を購入しなければなりません.これがUSB周辺装置の開発を著しく加速した,と筆者は考えています.作る方も,ハードウェアは一つでソフトウェア(デバイス・ドライバや関連ユーティリティ)をWindows用とMacintosh用の2通り用意すれば,ハードウェアを両方の市場で売れたのです.
これにより,秋葉原のパソコン・ショップにはあっという間にUSB対応周辺機器が,所狭しと陳列されるようになりました.この事実は,「ホスト・パソコンのUSB環境が完全に整った」ことを意味します.すなわち,ハードウェア(ホスト・パソコン)とソフトウェア(OS)の両面からUSBに対応したことになります.この環境は,周辺機器開発者にとって技術的にもビジネス的にも最高の状態であったに違いありません.
加えて,USBマス・ストレージ・クラス・ドライバの不備を修正しながらWindows 98SEがリリースされ,2000年にはWindows Meが,そしてオフィス向けとしてWindows 2000がリリースされました.このネットワーク環境対応のOSがUSBをサポートすることによって,オフィスにおけるUSBの普及がさらに加速しました.
この間の市場からの要求は「さらなる高速化」であり,USBはUSB 2.0ハイ・スピード・モードの時代へと突入しました.2000年10月の最初の開発者向け会議で公表された転送速度は「480Mbps」で,当時のUSB 1.1フル・スピード・モードの約40倍です.