設計の基本は仕様の理解 ――高速シリアル通信を実現するために知っておくべき最低限の知識
3)アイ・パターン
認証テストに失敗するとき,その原因の多くはアイ・パターン(eye patterns)の不良です.アイ・パターンの測定では,受信同期信号で表示位置を固定して測定波形を重ね書きします(図13).これは通信中のデータのタイミングと電圧振幅の良否判定に使用されます.「アイ」とは人の目のことで,通信品質が良好であれば目が開いた形になるので,この名まえが付いたと思われます.
筆者が初めてアイ・パターンを見たのは,約30年前に4,800bpsの多値位相変調を使用したモデムの調整を行ったときでした.当時,アイ・パターンを見るための計測器はあまりにも高価なので,業務用以外には使用できませんでした.実際のテスト方法については,計測器メーカごとの手順が示されたドキュメントをUSB-IFのホームページ(http://www.usb.org/developers/docs/)からダウンロードできます.より詳細な内容が仕様書の「7.1.2.2 High-speed Signaling Eye Patterns and Rise and Fall Time」にありますが,計測器メーカが提供する資料を参照することをお勧めします.
3)ジッタ特性など
USB 2.0で決められているさまざまな規格を理解するには,アナログ信号と高速シリアル通信の基礎知識が必要です.これらは,ディジタル回路設計者やファームウェア設計者にはかなり難解ですが,避けては通れません.
例えばジッタ特性です.電源電圧の変動と電源ノイズは,ドライバのスルー・レートとPLLのループ特性に影響を与え,これによってジッタが発生します.ジッタによるトラブルを防止するため,USB 2.0ハイスピード・モード対応LSIでは電源ピンをアナログとディジタルに分けています.バイパス・コンデンサは必ずすべての電源ピンの直近に配置しなければなりません.480MHz動作ということで,アナログ電源にLCフィルタを入れる設計者がいますが,ここで不適切な部品を使用すると逆効果となり,PLLの動作特性を悪化させる原因になります.通常はCのみで十分です.
このあたりの最新技術を知る近道は,計測器メーカなどが主催する無料のセミナに参加することです.できれば参加前にUSBに関する雑誌の記事などを読んで,基礎知識を習得しておいてください.
赤色で示されている部分(テンプレート)に波形(アイ)がかからなければ,良好な通信が行われているといえる.テンプレートの電圧レベルは,レベル1が525mV(状態遷移直後)または475mV(それ以外),レベル2が-525mV(状態遷移直後)または-475mV(それ以外)である.ポイント1(単位間隔内7.5%の時点)とポイント2(同92.5%)は0V,ポイント3(同37.5%)とポイント4(同62.5%)は300mV,ポイント5(同37.5%)とポイント6(同62.5%)は-300mVである.