設計の基本は仕様の理解 ――高速シリアル通信を実現するために知っておくべき最低限の知識
2)トランシーバとライン・インピーダンス
USB 2.0規格では,ライン・インピーダンスとトランシーバについても規定されています.仕様書の内容は,伝送線路理論を学んだことのある技術者にとっては入門レベルにすぎませんが,多くのディジタル回路設計者やファームウェア設計者にとっては難解なようなので,ここで概略を説明しておきましょう.
480Mbpsの信号を確実に通すためには,グラウンドに対して45Ωのインピーダンスでケーブル・エンドを終端します(図12).このときの差動インピーダンスは90Ωです.これは線間インピーダンスが90ΩのD+とD-のより対線を使用して差動信号で通信することを意味します.
また,コモンモード(対グラウンド)出力インピーダンスはD+,D-ともに45Ωです.トランシーバはデータ信号線のD+とD-を交互に電流駆動して,JステートとKステート注3を作り出します.USBコントローラLSIのグラウンドに対してD+とD-の直流抵抗も45Ωです.インピーダンスと直流抵抗が同じということは,リアクタンス成分を持たない終端回路であることを意味します.
45Ωの抵抗で外部終端したとき,ドライバ出力電圧はグラウンドに対してD+とD-とも±400 mV±10%でなければなりません.400mVの電圧値は,ドライバの定電流出力が17.78mAであることを意味します.実際の認証テストでは,このほかのテストを通過していれば,500mVまではウェーバとして認証を取ることができます.ただし,ウェーバは暫定処置なので,今後変わる可能性があります.
〔図12〕ライン・インピーダンス
グラウンドに対して45Ωのインピーダンスでケーブル・エンドを終端する.差動インピーダンスは90Ω.
注3;「Jステート」,「Kステート」は,信号線D+またはD-の駆動状態を示す.速度によってJとKの呼称が逆転する.「Table 7-2. Low-/full-speed Signaling Levels」と「Table 7-3. High-speed Signaling Levels」という箇所で規定されている.