電子機器開発者のための半導体パッケージ熱設計入門 ――待ったなし!SOC & SIPの熱対策
●○● Column 2 ●○●
半導体デバイスの微細化とリーク電流のジレンマ
微細化技術の革新によって数多くの回路がチップに集積され,同時に動作するトランジスタの数が増えました.また,それらのトランジスタを使って大量のデータを瞬時に計算できるように動作周波数を高めてきました.これに伴って消費電力は増加していきますが,それを抑制するために電源電圧は段階的に引き下げられてきました.消費電力は電源電圧の2乗に比例するので,電源電圧の引き下げは消費電力の低減に大きな効果があります.
しかし,それによって電流駆動能力が落ちないように,ゲートのしきい値電圧を下げて感度を高める必要があります.しきい値電圧を下げた結果,ゲート電圧がゼロになってもドレインから電流が流れ続けるOFFリーク(スイッチがOFFのときのもれ電流)が発生し,休止時の消費電力(スタンバイ・パワー)が増えてしまいました(図A-1).
図A-1 トランジスタの微細化に伴うリークの増大
● チップの微細化によってリーク電流が増える
デバイスの微細化によってゲート面積が小さくなります.ゲート容量はゲート絶縁膜の誘電率kとゲート面積Sの積に比例し,ゲート膜厚に反比例するので,一定のゲート容量を得るためにはゲート絶縁膜の厚みを薄くするか,高誘電率の絶縁膜(high-k材)を採用するしかありません.ゲート絶縁膜を薄くしていくとチャネルへのトンネル電流が発生し,ゲート・リーク電流が急激に増大します.
これらリーク電流が増大することによって,スタンバイ・パワーは急増して稼働時の消費電力(アクティブ・パワー)に匹敵する電力量となります.すなわち,機器を稼働していないのに稼働時の半分の電力が消費されてしまうことになるのです(図A-2).
図A-2 半導体の微細化と消費電力の危機
● リーク電流がチップの暴走を引き起こす
スタンバイ・パワーはアクティブ・パワーと比べて温度係数が高く,ドレインとソースの間のリーク(サブスレッショルド・リーク)は50℃の上昇で10倍にもなります.熱を制御しないと増大するリーク電流によって発熱し,さらにリーク電流が増えるという悪循環をもたらし,最悪の場合には熱暴走に陥る危険性があります.
また,動作時もリーク電流が止まるわけではないので,消費電力はスタンバイ・パワーが加算された値になります.
● リーク電流をカットする手法
微細化によるゲート・リークと動作電圧の低電圧化によるOFFリークを抑制するために,半導体メーカ各社から対策が提案されています.
図A-3に,筆者ら(NECエレクトロニクス)の低電力化手法を紹介します.縦軸のプラス方向は動作時の消費電力(アクティブ・パワー),マイナス方向はスタンバイ・パワーを表しており,棒グラフの総面積が消費電力となっています.低電圧化に伴うOFFリークの増加に対応して,動的電圧制御とhigh-k材によってOFFリークを抑制することを目指しています.
従来はアクティブ・パワーが消費電力の主役であったため,動作保証温度を超えても「動作が遅くなった」程度で済んでいました.しかし,近年の微細化によってスタンバイ・パワーの比率が大きくなり,温度上昇と大きな温度係数によって熱暴走を引き起こして,デバイスが破壊される危険性が大きくなってきたと言えます.
図A-3 消費電力の低減手法