磁界結合を利用した"ワイヤレスICE"を開発 ―― マイコンのデバッグ用I/O信号が不要になる
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電界,磁界,電磁波(電波)
大きく分けると,無線通信には電界を用いる方法と磁界を用いる方法,電磁波(電波)を用いる方法があります.
電界を用いる方法は静電結合と呼ばれ,二つの平板電極を使用します〔図A(a)〕.一方の電極に信号電圧を印加すると,電極間の静電容量に比例して,もう一方の電極にも電圧信号が誘起されます.信号の伝送は電極間の電界が担います.電極をシリコン(Si)チップ上に搭載する場合,電極とSiチップの間に形成される寄生容量が問題になります.通信距離がmm領域になると,二つの電極間の静電容量よりも寄生容量の方がはるかに大きくなり,受信信号が非常に小さくなります.従って,今回のデバッグ・システム用途には不向きであると言えます.
(a)は電界を用いた方法,(b)は磁界を用いた方法,(c)は電磁波(電波)を用いた方法を示す.電界を用いた方法は静電結合と呼ばれ,二つの平板電極間の容量結合を用いる.磁界を用いた方法は,二つのコイル間の磁界結合を利用する.電磁波(電波)を用いる方法は,アンテナから放射される電磁波で信号伝送を行う.
磁界を用いる場合,二つのコイルを使用します〔図A(b)〕.これは,送信側のコイルに信号電流を流してコイルの近傍に磁界を誘起し,受信側のコイルで磁界の変化を検出する方法です.二つのコイルの間の結合度に応じて,電磁結合や電磁誘導とも呼ばれます.近距離通信用途のRFID(Radio Frequency Identification)などでよく用いられる方法です.
静電結合方式や磁界結合方式で利用する電界や磁界は,いずれも送信側の電極あるいはコイルの近傍に局在し,距離が離れると急激に減衰します.
一方,伝送信号の周波数が高く,かつ波長が短くなると,小さなアンテナで送信機から効率良く電磁波(電波)を放射できます〔図A(c)〕.電磁波とは,交互に誘起されながら空間中を伝搬する電界と磁界の波で,遠距離まで信号が伝わります.携帯電話や無線LANは電磁波を用いて通信を行います.また,RFIDでも周波数帯として2.4GHz帯を使用する規格では電磁波を用います.ただしGHz帯の信号でも信号波長はcmのオーダとなります.効率の良いアンテナを小さなSiチップ上に搭載することは現実的ではありません.従って,この方法も今回のデバッグ・システム用途にはあまり適していません.
以上の特徴から,アンテナをチップ上に搭載することを目指した今回のデバッグ・システムの開発には,磁界結合方式を採用しました.