磁界結合を利用した"ワイヤレスICE"を開発 ―― マイコンのデバッグ用I/O信号が不要になる
前述のように,送信信号の変化率(微分)が大きいほど大きな受信信号が得られます.搬送波方式で大きな受信電圧を得るには,周波数の高い(GHz程度)搬送波を用いて変化率を大きくする必要があります.すると,高周波の発振器が必要となり,システムが複雑になったり,消費電力が増加したりします.一方,パルス方式では,幅の狭い送信パルス電流を生成できれば大きな受信信号が得られます.短パルスを生成する回路(図8)は,現在のLSI製造技術なら簡単な回路で実現できます.
送信データが'1'のときは,回路の左上のスイッチと右下のスイッチが一瞬閉じて,送信コイルの左側から右側へパルス電流が流れる.送信データが'0'のときは,回路の右上と左下のスイッチが一瞬閉じて,送信コイルの右側から左側へパルス電流が流れる.このようにして,送信パルス電流の生成および極性切り替えを実現している.スイッチにMOSトランジスタを使用している.
2) スペクトラムは一定の方が設計しやすい
搬送波方式では,送信信号のスペクトラムが搬送波近傍に集中します.また,データ・レートに依存してスペクトラム形状が変わります.従って,電波法上,搬送波やデータ・レートに制約が加わり,システム設計の自由度が下がります.一方,パルス方式では,パルス信号の周波数成分が広い帯域に拡散され,データ・レートによらず,送信信号のスペクトラムはほぼ同じ形状となります.この結果,データ・レートなど,システムのパラメータを比較的自由に設計することができます.
以上をまとめると,搬送波方式と比べ,パルス方式は回路がシンプルで至近距離無線通信の小型の送受信機を実現するのに適した方式と言えます.
受信側のデータ再生に要するタイミング・マージンを考慮して,本システムでは幅1nsのパルスを用いました.最大データ転送レートを500kbpsとして設計しています.この設計は,送信パルスの間隔を理論的に最短1nsまで詰めることができるため,1Gbpsのデータ転送レートを実現できる潜在能力を持っています.