つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
ソフトウェアとハードウェアの切り分けが終わり,原理設計の段階に入る.今回から2回にわたって,ワイヤレス通信機器の設計に固有の技術や知識について具体的に説明する.ワイヤレス通信の要素技術である高周波技術,変復調技術などは,数学や物理の知識が必要となる.こういった技術に携わる技術者は,三角関数の公式や,対数・真数変換,対数の計算程度の知識は理解しておくべきであると筆者は述べている. (編集部)
通信機器開発に必要な要素技術を表1に示す.これ以外にもソフトウェア設計技術,電源技術,LSI設計技術など,さまざまな技術が必要だが,ここには通信に特有のものを中心に挙げた.
変復調技術や符号化/復号化技術は,周波数資源の有効利用と高速・広帯域のデータ転送を実現するために,昔(携帯電話が普及する以前)から継続的に進歩してきており,昔も現在も重要である.
実現手段については,表の上へいくほど周波数が高いデータ,または信号を取り扱うような順番になっている.前回のハードウェアとソフトウェアの切り分けでも述べたように,高い周波数ではハードウェア(特に高い周波数ではアナログ回路,数十MHz以下の周波数ではディジタル回路)を,低い周波数ではソフトウェアを使うようになっている.
〔表1〕 通信機器開発に必要な要素技術
要素技術
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概 要
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実現手段
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重要度
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昔
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現 在
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高周波技術 | 数十MHz~数百MHzの信号を増幅,周波数変換する | アナログ回路 | 高い | 高い |
変復調技術 | 送受信すべき情報を高周波信号にのせやすい形に変換する | ディジタル/アナログ回路 | 高い | 高い |
符号化/復号化技術 | 通信の品質を向上させる | ディジタル/アナログ回路 | どちらかといえば低い | どちらかといえば低い |
音声処理技術 | 通信路上の音質を向上させる | アナログ回路 | 高い | どちらかといえば低い |
通信プロトコル | 送受信間で通信の確立,切断,保守を行う | ソフトウェア | どちらかといえば低い | 高い |
アプリケーション関連技術 | データベース,Webブラウザ,かな漢字変換,メーラなど | ソフトウェア | どちらかといえば低い | 高い |
表の中には各技術の概要,実現手段とともに技術の重要度を挙げている.ここでは,携帯電話が普及する以前(1995年ぐらい)とそれ以後に分けて考えている.重要度が低いといってもまったく要らない技術ではなく,枯れた技術が多いので「どちらかといえば低い」と表現している.