つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
●各回路に適した周波数に変える「周波数変換回路」
周波数変換回路は,各回路が扱いやすい周波数,または送受信すべき周波数に変換するために使用する.例えば,受信した信号をA-Dコンバータで取り込むためには,受信した信号をA-Dコンバータのサンプリング周波数の数分の1に変換する必要がある.
表3にそれぞれの回路や部品に適した周波数を示す.ただし,この数字はあくまでも目安であり,将来これに当てはまらない回路や部品が出てくる可能性も大きい.実際に,CMOS部品の動作周波数は数年前までは数百MHzまでだったが,現在は5GHzでも動作可能な部品が出てきている.
周波数変換には乗算器を使用する.二つの正弦波を乗算器に入力すると,式(1)に示されるような二つの周波数の和と差の成分を持った信号が生成される現象を利用する.
図3のIF(中間周波信号),LF(低周波信号),RF(高周波信号)を使って書くと,式(1)は以下のようになる.
この信号は図3のZの部分の信号になる.Zの信号の後にfm+fl の周波数信号のみを通すBPF(帯域通過フィルタ)を挿入すると,周波数fmとflの信号から周波数fm+fl=frの信号を作ったことになる.
以上が周波数変換回路の動作である.BPFの通過周波数をfm-flにすると,入力された周波数fmよりもflだけ低い周波数を得ることができる.
〔表3〕周波数変換に使用される部品/回路に適した周波数
部品/回路
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動作周波数
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SAWフィルタ | 数十MHz~数GHz |
変復調器 | 数十MHz~数百MHz |
水晶フィルタ | 数十MHz |
セラミック・フィルタ | 数十kHz~数MHz |
A-D/D-Aコンバータ | 0Hz~数十MHz |
CMOS部品 | 0Hz~数GHz |
バイポーラ部品 | 0Hz~数十GHz |
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〔図3〕周波数変換回路
Zの部分の信号はIFとLFの積で求められる.乗算器の後ろにfm+flの周波数信号のみを通すBPF(帯域通過フィルタ)を挿入すると,周波数fmとflの信号から周波数fm+fl=frの信号を作ったことになる.