つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
●感度を上げるための「低ノイズ・アンプ」
LNA(low noise amplifier:低ノイズ・アンプ)は,ワイヤレス通信機器の感度を良くするために,受信回路の前方に置かれる増幅器である.増幅器は信号を大きくすることが目的の部品だが,増幅するとともにノイズも信号に加えてしまう.そのようすを概念的に書くと図4のようになる.
受信感度を高くするためには,ノイズがなるべく小さい増幅器を使えばよいのだが,部品の性質などによりノイズをゼロにすることはできない.また,低ノイズの部品はインピーダンス整合が困難であったり,部品の値段が高価な場合が多く,すべての増幅器に低ノイズ・アンプを使うことはできない.しかし,少ない数の低ノイズ・アンプで感度を高くする方法は存在する.以下にその方法を説明する.
増幅器は増幅利得を稼ぐ(通常,数百万倍に増幅する)ために,一般に図5のように多段接続して使用する.入力段を含め,それぞれの増幅器の利得は10倍とする.また,各増幅器で発生するノイズをそれぞれA,B,Cとする.入力信号を10としたとき,1段目の増幅器の出力信号(S)は100,ノイズ(N)はA×10になる.2段目ではノイズBが入力に加えられ,Sは1,000,Nは(A×10+B)×10になる.3段目の出力を同じ要領で計算すると,Sは10,000,NはA×1,000+B×100+C×10になる.
この結果を見ればわかるように,各段の増幅器のS/Nにもっとも影響を与えるのは1段目の増幅器で発生するノイズAである.このノイズAを小さくすれば,全体のS/Nを低く抑えることができる.このような理由から,受信感度を高くするためには,一つあるいは二つの低ノイズ・アンプを前段のほうに置けばよい.
〔図4〕ノイズの概念図
増幅器は信号を大きくすることが目的であるが,増幅するとともにノイズも信号に加えてしまう.
〔図5〕 増幅器の多段接続
入力信号を10としたとき,3段目の出力信号Sは10,000,NはA×1,000+B×100+C×10になる.各段の増幅器のS/Nにもっとも影響を与えるのは,1段目の増幅器で発生するノイズAであることがわかる.