つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
4.シミュレーションについて
符号化/復号化,変復調の設計では,コンピュータによるシミュレーションが多用される.ここでは,シミュレーション時に考慮すべき点を述べる.A-Dコンバータとエラー訂正符号の組み合わせにより,どれだけ性能を向上させられるかを検討するシミュレーションを例に挙げる.
●ターゲットの説明
高周波回路を通ってきたアナログ信号をA-D変換して復調し,エラー訂正を行う図20のような回路の受信品質を最適化する場合を考える.このシミュレーションのために図21のようなモデルを用意する.このシミュレーション・モデルを使って以下の手順で作業を進める(図22).
- A-Dコンバータの分解能やエラー訂正能力を考慮しない理想モデルを作成する
- 理想モデルによるシミュレーションで理論値を把握し,それを設計の指標とする
- インプリメントに必要な設計パラメータの検討と洗い出しを行う
- パラメータを変化させて最適値または目標値を得る
今回のモデルによるパラメータ検討事項および前提条件は,便宜上次のようにした.
- 復調回路は将来の集積化を考え,ディジタル回路で行う(ビット・レートが高いため,ソフトウェアによるデータ復調は困難)
- ディジタル処理のためのA-Dコンバータが必要
- コストを考え,A-Dコンバータの分解能はなるべく低いものを使う
この前提条件をもとに,A-Dコンバータの分解能とエラー訂正回路の訂正能力(1ブロック中の何ビットのエラーまで訂正できるか)をパラメータとしてシミュレーションを行った結果を図23に示す.
ここで得られた結果を組み合わせて,良い結果が得られればよいのだが,エラー訂正能力にしてもA-D変換の分解能にしても,大きければ大きいほど通信の品質を向上させることはわかっている.しかし,それに伴ってコストも回路規模も増大していくので,最適なポイントを探し出す必要がある.
〔図20〕シミュレーションのターゲット
高周波回路を通ってきたアナログ信号に対してA-D変換,復調,エラー訂正を行う回路の受信品質を最適化する.
〔図21〕シミュレーション・モデル
図20に示したターゲットのシミュレーションを行うためのシミュレーション・モデル.
〔図22〕 シミュレーションの手順
図のような順番でシミュレーション作業を行う.
〔図23〕シミュレーション結果
A-Dコンバータの分解能とエラー訂正回路の訂正能力(1ブロック中の何ビットのエラーまで訂正できるか)をパラメータとしてシミュレーションを行った結果を示す.