つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
1.必要な知識は時代とともに変化する
各要素技術について説明する前に,携帯電話が普及する以前から現在までのワイヤレス通信機器の要素技術の変遷について述べる.
携帯電話を見ればわかるように,現在ではユーザが通信についての知識を持っていなくても,ワイヤレス通信機器を使うことができる.その昔,ワイヤレス通信機器というと,周波数を合わせて相手の電波を受信したり,場合によってはアンテナを動かして電波が強くなる方向を探さなくてはならなかった.今で言えば,電波の届きにくいところでラジオ放送を聞くときの行動が昔のワイヤレス通信機器の使いかたと言えるだろう.このような昔の機器に使われている技術の大半は,高周波技術,(アナログ)変復調技術,音声処理技術の三つである(図1).
この当時のワイヤレス通信機器は手動で周波数を合わせ,耳や目を頼りに相手の信号を探し出し,通信を行っていた.その後,人間の五感に頼る相手局との通信の確立(以下「呼制御」と呼ぶ)をコンピュータによって自動化する技術として,通信プロトコルが生み出された.有線通信の世界では,「ダイヤル式電話機+交換機」で自動的に相手とつながったころから通信プロトコルが実用化され始めた.ワイヤレス通信の世界では,パーソナル通信機のころからワイヤレス通信機器に搭載されたコンピュータによって相手局を探し出し,自動的につなぐ呼制御を行うようになった.
このようにワイヤレス通信機器における通信プロトコルの実用化は,今から20年ほど前に始まった.また,ワイヤレス通信機器のコンピュータの間で決められた通信プロトコルに沿って呼制御を行うためには,コンピュータに理解できる信号(通常は'0','1'のディジタル信号)をやり取りする必要がある.そこで,電波にディジタル信号をのせる技術として符号化/復号化技術,変復調技術が必要となる.特に,後者はアナログ信号を送出するために使われてきた従来の変復調技術と区別するために,「ディジタル変復調技術」と呼ばれる場合がある.
ワイヤレス通信機器の要素技術として最後に出てきたのは,アプリケーション関連技術である.カメラ,iモード,IrMC付きの携帯電話に代表されるさまざまなアプリケーションが,ワイヤレス通信機器に搭載されるようになってきた.
今回はこれらの技術のうち,高周波技術,変復調技術,符号化/復号化技術の詳細と,設計・検証手法について説明する.
〔図1〕要素技術の変遷
携帯電話が普及する以前,ワイヤレス通信機器に使われている技術の大半は,高周波技術,(アナログ)変復調技術,音声処理技術の三つで占められていた.その後,呼制御の自動化のためにプロトコル通信が生まれた.コンピュータ間で決められた通信プロトコルに沿って呼制御を行うために符号化/復号化技術やディジタル変復調技術が必要となり,最後にアプリケーション関連技術が出てきた.