つながるワイヤレス通信機器の開発手法(6) ――原理設計を行う 通信工学のおさらい
例えば,マルチパスは移動体通信では非常に深刻な問題である.マルチパスは,図13のように受信点において二つ以上の経路(パス)を通って信号が受信され,お互いが干渉し合って通信品質を劣化させることである.マルチパスによる通信の劣化を避けるため,最近の移動体通信ではOFDM(orthogonal frequency division multiplex)が脚光を浴びている.
図14のように,OFDMはシリアル-パラレル変換を用いて低速のシンボル・レートに変換して送信する方式である.シンボル・レートが低いのでマルチパスに強い.送信した信号が二つのパスを通って遅延時間t1,t2で受信されたとする.この遅延時間はパスの長さに比例し,パス長が長いと大きくなり,短いと小さくなる(図15).シンボル・レートが低いと二つの受信波によってつぶしあう部分(
の部分)が小さく,正確に受信できる場合が多い.シンボル・レートが高い場合,同じマルチパスであってもほとんどのデータはお互いにつぶし合い,正常に受信できなくなっている.これがOFDMがマルチパスに強い理由である.OFDMはワイヤレスLANや第4世代ワイヤレス通信など,最近の多くの通信方式に採用されてきている.
〔図13〕マルチパス
マルチパスは,図のように受信点において二つ以上の経路(パス)を通ってきた信号が受信され,お互いが干渉し合って通信品質を劣化させることである.
〔図14〕OFDM通信
OFDMはシリアル-パラレル変換を用いて低速のシンボル・レートに変換して送信する方式である.シンボル・レートが低いのでマルチパスに強い.なお,ビット・レートとシンボル・レートは1対1ではない.例えば4相PSKの場合,4状態のうち1状態を送るため,一度に2ビット(1シンボル)を送信できる.このとき,ビット・レートは2,シンボル・レートは1である.
〔図15〕OFDMがマルチパスに強い理由
送信した信号が二つのパスを通って遅延時間t1,t2で受信されたとする.シンボル・レートが低いと二つの受信波によってつぶしあう部分(の部分)が小さく,正確に受信できる場合が多い.シンボル・レートが高い場合,同じマルチパスであってもほとんどのデータはお互いにつぶし合い,正常に受信できなくなっている.