ユーザから見たIIMPカーネル概説 ――組み込み分野でもソフトウェア部品を再利用する時代に
C O L U M N
TRONプロジェクトのもたらしたもの
筆者がTRONプロジェクトに興味を持ち,TRONプロジェクト・シンポジウムに参加してから16年になる.
TRONプロジェクトは「国産OSプロジェクト」,「日の丸コンピュータの開発」などと呼ばれることも多いが,実際にかかわっている技術者には,その洗練されたアーキテクチャに魅せられて加わった人たちが多い.
教育を重視していることから仕様書や解説書も体系立っており,非常にわかりやすい.TRON仕様のリアルタイムOSやマイクロプロセッサを理解すると,海外製のメジャーなリアルタイムOSやマイクロプロセッサもよく理解できるようになる.結果として,このプロジェクトにかかわっている技術者にはオリジナルのプロセッサやOSを開発している方ばかりでなく,海外から導入したプロセッサやOSを独自のノウハウで活用している方も多い.
筆者は人工衛星に搭載する装置を開発しており,半導体メーカから見ればユーザである.しかし,必要に応じてマイクロプロセッサやリアルタイムOSを開発し,ソフトウェア開発ツールもサード・パーティの方々と共同開発している.開発したチップやOSは厳しい環境の宇宙空間でも無事に動作し続けている.
TRONプロジェクトが始まったころ,日本人にはオリジナルのマイクロプロセッサやOSは開発できないと言われていた.もしこのプロジェクトがなかったら,今でも同じことが言われ続けていたかもしれない.さらに,ユーザの立場にいる自分がマイクロプロセッサやOSを開発できるようになるなど,当時は想像もつかないことだった.
このプロジェクトから産み出されている仕様書類はもちろん立派な業績であるが,コンピュータ・アーキテクチャを体系的に理解し,良いものは国内外を問わず導入し,なければ自社で開発する,といったフェアな視点と力量を持った人材を数多く育成したことは,意外に知られていない.