ネットに接続する組み込み機器の開発を容易にするミドルウェア群「T2EX」を一般公開 ―― TRONSHOW 2013
TRON仕様の標準リアルタイム・カーネル(リアルタイムOSの中核部分)「T-Kernel」の策定と普及を促している業界団体「T-Engineフォーラム」は,2012年12月12日~14日に東京・六本木の東京ミッドタウンホールで講演会兼展示会「TRONSHOW 2013」を開催した(写真1).T-Kernelは,共通仕様として策定されたリアルタイム・カーネル「ITRON」と「μITRON」が,実際にはいろいろな機能が独自に実装されることでソフトウェアの互換性を失っていた状況から,より強い標準,すなわちソース・コードが共通で使えるリアルタイム・カーネルとして2003年に開発された.
東京大学教授でT-Engineフォーラムの会長をつとめる坂村 健氏(写真2)は講演会で,「かつてはマイクロコントローラ(マイコン)の性能がそれほど高くはなく,性能を引き出すためにソース・コードをチューニングする必要があった.このためマイコンの品種ごとにソース・コードが異なり,共通のソース・コードというのは実用的に無理があった.しかし10年ほど前からマイコンの性能が急速に向上し,一方で数多く存在するソース・コードの保守や改変などの手間が増大していた.このため,ソース・コードを1本化することへの要求が強まった」とし,T-Kernelが策定された時代の背景を説明した.
ITRONやμITRONは組み込み用途を想定したリアルタイム・カーネルなのだが,組み込み用途といっても性能に対する要求には広がりがある.ローエンドもあれば,ハイエンドもある.そこでT-Kernelでは,異なる要求レベルに応えられるようにいくつかの派生品やミドルウェアなどを用意した.
●T-Kernelこの10年
T-Kernelが一般に公開されたのは2004年1月のことである.その後,小規模な組み込み機器に向けた「μT-Kernel」が2007年に,マルチコアプロセッサに対応した「MP T-Kernel」が2009年に一般公開された.また,機能拡張であるミドルウェア群「TKSE(T-Kernel Standard Extension)」が2006年に一般公開されている.TKSEの登場によってT-Kernelは大幅に使いやすくなったと言える.
T-Kernelが登場した後も,マイコンの性能向上は続いた.マイコンの動作周波数は上昇し,内蔵メモリ容量は増大し,周辺機能が強化された.この変化に対応するため,T-Kernelをバージョンアップした「T-Kernel 2.0」が開発され,2011年5月に一般公開された.
そしてTRONSHOWの初日である2012年12月12日には,T-Kernel 2.0の機能拡張であるミドルウェア群「T2EX(T-Kernel 2.0 Extension)」が,一般公開された(図1).T-EngineフォーラムのWebサイトからソース・コードを無償でダウンロードできる.
●T-Kernel 2.0の機能拡張「T2EX」の概要を紹介
12月13日には,T2EXの概要を紹介する講演セッション「いよいよ一般公開T2EX」が開催された.講演者は坂村 健氏のほか,T-Kernel 2.0サブワーキング・グループ(SWG)の座長をつとめている松為 彰氏(パーソナルメディア 代表取締役)と,SWGのメンバである矢代 武嗣氏(YRPユビキタス・ネットワーキング研究所),五百部 慶一氏(富士通セミコンダクター),権藤 正樹氏(イーソル),豊山 祐一氏(日立超LSIシステムズ)である(写真3,写真4).