無線通信の基礎知識 ―― 組み込み機器に無線機能を付けるために知っておこう
4.無線通信機器の構成
無線通信機器はハードウェアとソフトウェアの両面におけるさまざまな技術から成り立っています.近年の電波を使ったディジタル無線通信機器を構成している代表的な要素技術を表3に示します.
要素技術 | 必要性 |
アンテナ設計 | 低消費電力で通信距離の長い無線通信システムには,小型で効率良く電波を送受信できるアンテナが必要 |
高周波回路 | 電波法の規制を守りつつ高速でエラーの少ないデータ通信を行うには,優れた高周波回路技術が必要 |
変調・復調 | 変調とは,送信したい情報を電波に乗せることで,復調とは,それとは逆に受信した電波から情報を取り出す操作.これらの技術は限られた電波資源の中により高密度のデータを詰め込み,高速な通信を行うために必要 |
ディジタル信号処理・情報理論 | 通信の途中で発生したデータの誤りを訂正したり,通信中の情報を暗号化したりするために必要 |
ディジタル回路 | 変調・復調やディジタル信号処理の一部はCPUやDSP,専用のディジタル回路などで実現されている.これらの回路を設計するためにディジタル回路技術を要する |
ソフトウェア | 変調・復調やディジタル信号処理の一部はCPUやDSP上で実行されるプログラムとして実現されている.また,無線通信の全体的な制御やプロトコルの処理など,無線通信機器として最終的に「使える」状態にするためにはソフトウェア技術の役割が大きい |
測定・評価 | 無線通信機器が,電波法の規制や各種規格などに準拠しているかどうか,どの程度の性能を持っているか,信頼性はどうか,といったさまざま観点から評価することが重要 |
また,無線通信機器の進化は,この表以外にも電子部品の特性改善や半導体製造技術の進歩など,非常に広範囲な技術の発展に支えられています.
これらの技術を用いた標準的な無線通信機器は,図5のような構成となります.
それぞれの構成要素の概要を説明します.
● アンテナ:外界との電波の「窓口」
アンテナは,空間を伝わる電波を捕らえて電気信号として無線通信機器に導き入れたり,逆に電気信号を電波として空間に放射したりするための,いわば無線通信機器と外界の間の「窓口」です.アンテナは,その形状や構造などによって特性が大きく変わり,その構造は各メーカのノウハウとなっています.
また,機器の小型化の要求に伴ってアンテナの小型化も望まれていますが,一般にアンテナのサイズと性能はトレードオフの関係にあります.利用する周波数が同じであれば,アンテナの性能を変えずに大きさだけを小さくすることは困難です.小さなアンテナでは,外界からの電波を十分に取り入れることができず,受信感度が悪化します.送信時も,効率良く電波を放射できず,余計なエネルギが必要になり,電池の持ちが悪くなる,というようなことになります.アンテナの構造や材質を工夫することで,性能と小型化を両立する高性能アンテナの研究が地道に続けられています.
なお,IrDAに代表される赤外線を用いる機器では,発光・受光素子がアンテナに相当します.こちらも,発光素子のエネルギ変換効率や受光素子の感度,応答速度などを改善する研究が行われています.