無線通信の基礎知識 ―― 組み込み機器に無線機能を付けるために知っておこう
● 高周波回路:電波の電気信号を整形する
高周波回路は,アンテナで受信した微弱な信号を増幅するためのアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)や不要な信号を取り除くためのフィルタ,送信する信号を増幅してアンテナへ送るためのアンプ(PA:Power
Amplifier)などから構成されます.
このブロックはさらに,周波数を変換するという重要な機能も含んでいます.アンテナから送受信される電気信号は周波数の高い信号がほとんどです.そのままの周波数で後述するA-D変換やD-A変換,信号処理を行うことは,回路の動作速度の制約から極めて難易度が高く,コストも非常に高いものになってしまいます.周波数によっては不可能な場合もあります.そこで,受信した高周波信号の周波数を下げたり,低い周波数で入ってきた送信信号を高い周波数に変換してアンテナへ送り出したり,という処理を行います.そうすれば,A-D変換やD-A変換,信号処理は比較的低い動作速度で済むため,技術的難易度が下がり,コストも下がります.
かつてこの分野は,性能上の理由などからIC化が難しい部分でした.近年では,数mm角のシリコン・チップ上に高周波回路のほとんどを集積化することも可能となり,小型化と低コスト化が進んでいます.
● A-D/D-A変換:データをディジタル処理可能に
無線通信を使って情報を伝達するためには,ある程度の周波数の幅(帯域)が必要であることは既に述べました.限られた周波数帯域に少しでも多くの情報を詰め込めるように,最近の無線通信ではDSP(Digital
Signal Processor)などを用いた高度なディジタル信号処理によって変調や復調を行います.この処理はディジタル的な数値演算で実行されますが,高周波回路はアナログ的な動作なので,相互に変換する必要があります.これを行うのがA-D変換とD-A変換です(図6).
A-D変換は,アナログ的な電気信号をディジタル的な数値の列で表現される波形データに変換し,CPUやDSPなどで処理できるようにする.D-A変換はその逆に,数値の列で表現される波形データをアナログ的な電気信号に変換する
図5では,このA-D変換とD-A変換を境に左側がアナログ回路による処理,右側がディジタル回路とソフトウェアによる処理となります.