無線モジュールと圧電センサを組み合わせて「こんな物あったらいいな」を提案 ―― 「ETアワード2012」受賞企業インタビュー(5) 村田製作所

Tech Village編集部

一般社団法人 組込みシステム技術協会(JASA)は,「ETアワード2012」の受賞者を発表した.ETアワード2012の「スマートヘルスケア部門」では,村田製作所の「非焦電性有機圧電フィルムセンサを用いた歩行測定システム」が優秀賞に選ばれた.同社は,無線モジュールと圧電センサを靴へ実装し,歩行の情報をスマートフォンで確認する歩行測定システムを開発した.ここでは歩行測定システムの開発にたずさわった同社の能澤 伸幸氏(写真1)に話をうかがった.

 

写真1 村田製作所 通信事業本部 コネクティビティ賞品事業部 ソリューションサービス部 システム開発課 係長の能澤 伸幸氏(右)と同課 池田 知穂氏


 

 

――ETアワード2012スマートヘルスケア部門の優秀賞を受賞した歩行測定システムの概要を教えてください.

能澤氏:今回受賞した歩行測定システムは,当社で開発した「Bluetooth SMARTモジュール」と「フィルム状の圧電センサ」を組み合わせ,靴の中敷きに入れることで,歩行や運動の際に重心移動や足の力の入れ方の情報をスマートフォンで確認できるようにしたものです.

 

―― Bluetooth SMARTモジュールとフィルム状の圧電センサの概要をお聞かせください.

能澤氏:Bluetooth SMARTモジュールは,Bluetooth low energy規格に対応しており,ボタン電池で通信可能な低消費電力の無線モジュールです.1枚の基板に8ビット・マイコン,アンテナ,RF回路が実装されています.1秒間に1回程度の通信であれば,ボタン電池1個で3カ月持ちます.

 フィルム状の圧電センサは,曲げやねじりを検知します.焦電効果注1がないため,靴の中で温度が上昇しても正確なデータを測定できます.このセンサを靴の中敷きの親指,小指,土踏まず,かかとの4点に配置しています.このセンサは,伸び方向について電圧がリニアに現れます.力が加わっても伸びないと電圧が出ないセンサです.圧力の変化(微分値)を測定しているのが大きな特徴です.

注1:焦電効果とは,温度変化によって,誘電体の分極(表面電荷)が変化し,電圧が生じる現象.

 

―― なぜ,このような歩行測定システムを開発しようと考えたのですか?

能澤氏:この歩行測定システムは,もともと当社製品の無線モジュールとセンサのデモンストレーション用として開発しました.そのため,このシステムで計測した数値が,医学的またはスポーツ医学的,あるいは靴メーカにとってどこまで意味のある数値かは分かりません.

 当社は,BluetoothやWi-Fiなどの無線モジュールで60%の世界シェアを確保しています.私たちは無線モジュールやセンサを使って消費者が喜ぶものを開発し,また,それを何か別の用途に使用できないかと常に考えています. 

 最近では多機能のスマートフォンが普及しています.そこで,スマートフォンと無線モジュールを利用して,測定した値を見えるようにすれば良いのではないかと考え,靴の中に無線モジュールとセンサを組み込みました.センサから取れる情報について靴メーカに価値を見出してもらえれば,すぐにでも実用化できます.技術的な問題はありません.このような仕組みが,靴メーカと消費者の間の橋わたしの役割を果たしてくれると思っています.

 

―― この「歩行測定システム」を開発したきっかけを教えてください.

能澤氏:まず,「消費者が欲しいと思う製品は何か?」と考え,「趣味」,「子供」,「ヘルスケア」,「ペット」の分野だと思いました.次に,社内・社外の人に,どのような製品が欲しいかを聞くと,趣味のスポーツについての話題が多くありました.例えば,マラソンのタイムが縮まらない,ゴルフのスイングがうまくいかない,といった話題です.このような話を聞いていて,靴から得られる情報で問題を解決できるのではないかと思いました.このシステムは歩行のリハビリのアドバイスなどにも応用できるのではないかと考えています.

 

―― 今後,この「歩行測定システム」どのように展開していきたいと考えていますか? 

能澤氏:例えば,「歩き方,走り方をアドバイスするWebサイト」を構築し,トレーナやコーチがいなくても,スマートフォンに測定結果をフィードバックして,問題の解決方法も提示できれば,と考えています.また,マラソン用,ゴルフ用,自転車用,釣り用,ボーリング用など,ターゲットが明確なところに適用できればと考えています.さらに,靴だけではなく,今まで無線が搭載されていない,消費者が欲しいと感じてもらえるところに無線モジュールを取り込んでいければ,と考えています.無線モジュールの応用の開拓ではボトムアップ的な考え方が重要です.だから「こんな物あったらいいな」という発想を大切にしながら開発したいと思っています.

 

―― 無線モジュールは今後,どのように活用されていくのでしょうか?

能澤氏:スマートフォンはますます多機能になり,普及が進みます.誰もがスマートフォンを所有していると,無線の受信機側を用意しなくてもシステムを構築できます.無線モジュールと組み合わせたセンサの情報をスマートフォン経由でクラウド・サーバに送るようなソリューションも簡単に実現できるようになると思います.

 

●参考URL
(1) Embbedded Technlogy 2012;ETアワード2012発表のページ
(2) 村田製作所; 非焦電性有機圧電フィルムセンサを用いた歩行測定システム解説動画
(3) 村田製作所; Bluetooth SMARTモジュールの量産開始について
(4) 村田製作所;高透明度有機圧電フィルムを用いたセンサデバイスの開発について

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日