商用サービスが始まったモバイルWiMAXの展示に人気集中 ―― ワイヤレスジャパン2009レポート
モバイル技術とワイヤレス技術に関する専門展示会「ワイヤレスジャパン2009」が2009年7月22日~24日に東京ビッグサイト(東京都江東区)の東4・東5ホールで開催された(写真1,写真2).UQコミュニケーションズが商用サービスを始めたモバイルWiMAXや,家電機器のリモコン向けの技術仕様を策定したZigBeeなどについての展示が目を引いた.
[写真1] ワイヤレスジャパン2009会場
[写真2] ワイヤレスジャパン2009の会場内の風景
●移動体通信に対応したモバイルWiMAXに注目
会場では,2009年2月に国内でモバイルWiMAXの商用サービスを始めたUQコミュニケーションズの展示ブースが来場者の関心を大きく引き付けていた.30分ごとにモバイルWiMAXサービスの概要をブース正面で講演していたが,毎回,聴講者で廊下まで埋め尽くされるほどの人気を見せていた(写真3).
[写真3] UQコミュニケーションズのブース講演
15分程度でモバイルWiMAXを解説するプレゼンテーションを30分ごとに実施していた.毎回,通路を埋めつくすほどの人だかりができていた.WiMAXに関する関心の高さがうかがえる.
UQコミュニケーションズが始めたモバイルWiMAXサービス「UQ WiMAX」はIEEE 802.16eに準拠しており,下り方向(端末が受信するとき)は最大40Mbps,上り方向(端末が送信するとき)は最大10Mbpsでデータを伝送する.無線LANと大きく違うのは移動体無線対応であること.時速120kmで移動していてもデータを無線でやり取りできる.利用周波数帯域は2.5GHz帯で,2,595MHz~2,625MHzの30MHzを使う.
2009年2月にはサービス・エリアが東京都23区内と川崎市,横浜市だったのが,7月には名古屋市,大阪市,京都市,神戸市に拡大された.2010年3月までには全国の政令指定都市にサービス・エリアを拡大する予定である.ただし,携帯電話サービスと違い,モバイルWiMAXには東京都23区内であってもカバーしていない地域がある.UQコミュニケーションズのホームページには,カバー地域を番地で検索できるサービスを用意している.
サービスの利用料は定額制で,登録料が2,850円,使用料が月額4,480円である.携帯電話の高速データ通信技術「HSPA+(High Speed Packet Access Plus)」を利用したイー・モバイルのデータ通信サービス「データプラン21」(下りが最大21Mbps,上りが最大5.8Mbps)だと,定額制で2年間契約の場合,使用料が月額5,980円なので,データを大量にやり取りするユーザにとってはモバイルWiMAXの方が割安といえそうだ.一方,電子メールによるテキスト送受信が目的の場合はデータ送受信量が少ないので,イー・モバイルの「スーパーライトデータプラン21」という月額基本料金が1,000円(1,000円分のパケット通信が無料,2年契約)などの格安プランの方が有利だろう.
UQコミュニケーションズの展示ブースでは「UQ WiMAX」用アダプタのほか,パーソナル・ナビゲーション・デバイス(PND)にモバイルWiMAXを組み込んだ試作品,モバイルWiMAXモジュール基板,モバイルWiMAX内蔵ノート・パソコンなどが展示されていた.
UQコミュニケーションズの展示ブース内で,PNDにモバイルWiMAX機能を組み込んだ試作機を展示していたのはクラリオンである.AtomプロセッサとLinux OSを組み込んだ無線LAN接続機能付きPND製品「NR1U」をベースに,モバイルWiMAXモジュールを組み込んでいた(写真4).
[写真4] パーソナル・ナビゲーション・デバイス(PND)にモバイルWiMAX機能を組み込んだ試作機
UQコミュニケーションズの展示ブース内でモバイルWiMAXモジュール基板を展示したのは,インテルである.無線LAN(Wi-Fi)とモバイルWiMAXのコンボ・モジュールを展示していた(写真5).また,このコンボ・モジュールをノート・パソコンに組み込んだところも示していた(写真6).モバイルWiMAX内蔵ノート・パソコンについては,東芝やパナソニックなどが製品を展示していた.
[写真5] モバイルWiMAXと無線LAN(Wi-Fi)のコンボ・モジュール基板
[写真6] モバイルWiMAXと無線LAN(Wi-Fi)のコンボ・モジュール基板を,ノート・パソコンに組み込んだところ
●ZigBeeを使い,地震を検知して電源を遮断
短距離無線ネットワーク技術「ZigBee」についての展示も来場者の目を引いていた.
アドソル日進は,地震を検知して電源を遮断するシステム「グラッとシャット」を開発し,実際の製品を展示していた(写真7).地震の揺れを感知するセンサを組み込んだ親機(ZigBeeネットワークのコーディネータ)と電源を遮断する子機(ZigBeeネットワークのルータ)で構成される.1台の親機に対して20台までの子機を接続できる.子機は電源コンセントのアダプタとなっており,電源を遮断したい機器の電源プラグを子機に差し込んでおく.
[写真7] 地震を検知して機器の電源を遮断するZigBee応用製品
親機が震度5強以上の揺れを感知すると,子機が自動的に電源を遮断する.同時に,親機と子機のランプが白色(平常時)から赤色に変わり,子機が警報音を発する.状態を復帰させるときは,子機のボタンを押す.
●家電機器のリモコンをZigBeeで1台に統合
ZigBeeを家電機器用無線リモコンに応用する技術仕様「RF4CE」に関する展示も興味深かった.1台のリモコンで複数の家電機器を制御できる技術仕様である.
ZigBeeチップのベンダであるオランダのGreanPeak Technologies社は,RF4CE準拠のZigBeeリモコンと赤外線リモコンの消費電力量の違いを示すデモンストレーションを実施していた(写真8).RF4CE準拠のZigBeeリモコンの消費電力量は0.304μJと少ない.赤外線リモコンは19.392μJを消費していた.
[写真8] RF4CE準拠のZigBeeリモコンと赤外線リモコンについて,ボタンを押したときの消費電力量を比較した
●コイン型電池で11年動作する短距離無線ネットワーク技術
このほか,コイン型電池で10年以上の寿命を確保できる短距離無線ネットワーク技術「ANT(アント)」に準拠したRF送受信ICの展示が目を引いた.ノルウェーの半導体メーカであるNordic Semiconductor社が展示していた.
ANTは,センサと無線送受信機能を内蔵する端末を電池で長期間にわたって動かすことを目的にカナダのDynastream Innovations社が開発した通信プロトコルである.送受信するデータ量とデータを送受信する頻度が共に多くない用途を想定した技術だ.1時間に1回のメッセージ送信頻度で,1回のメッセージ送信に要する時間を1秒としたとき,CR2032タイプのコイン型電池でセンサ端末を11年間も動かせるとしている(写真9).展示ブースではANTプロトコル搭載送受信モジュールや無線送受信チップの評価モジュールなどを展示していた(写真10).
[写真9] 短距離無線ネットワーク技術「ANT」の概要
[写真10] ANTプロトコル搭載無線送受信モジュールと無線送受信チップ評価モジュール
無線通信に利用する周波数は2.4GHz帯域である.ピア・ツー・ピアやスター,ツリー,メッシュといったネットワーク構成に対応する.伝送距離は30m程度,最大データ転送速度は1Mビット/秒(実際の転送速度はずっと低め)である.
ANT技術にはデータリンク層とネットワーク層とトランスポート層のプロトコルを規定した「ANT」と,セッション層およびプレゼンテーション層,アプリケーション層を規定した「ANT+(アントプラス)」がある.ANT+を実装したモジュールや電子機器などは,相互に自動的に無線接続し,データをやり取りし,データを処理した結果を送受信できるようになる.主な用途としてはヘルスケア分野を狙う.例えば心拍計や血圧計などのデータと,フィットネス機器の動作データやウォーキングの歩行データ,自転車の走行データなどを同時に取得して記録し,トレーニングや健康管理などに役立てる.
またANT技術の普及を目的とした業界団体「ANT+ Alliance」があり,2009年7月1日現在で146社が参加しているという.
ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
http://d.hatena.ne.jp/affiliate_with/