無線通信の基礎知識 ―― 組み込み機器に無線機能を付けるために知っておこう
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伝送線路と特性インピーダンス
伝送線路と特性インピーダンスは,高周波回路の話では必ずといっていいほど出てくる言葉ですが,見ただけで読み飛ばしたくなる方も多いと思います.しかし,そのイメージは必ずしも難しいものではありません.
伝送線路とは,光ファイバが光を導くように,高周波信号を導くための構造のことです.身近な例としてはテレビのアンテナ配線などに用いられる同軸ケーブルが挙げられます.伝送線路の役割は,高周波信号を忠実に伝達することです.また,光ファイバが長距離になるとだんだんと光が弱くなっていく(損失が増える)のと同じように,伝送線路を伝わる高周波信号もだんだんと弱くなっていきます.伝送線路はこの損失をなるべく少なく伝達することも求められます.
特性インピーダンスとは,光に例えると屈折率のようなものです.空気中を伝わる光は直進しますが,その途中に水やガラスがあると屈折率が異なるため,光の一部が反射します.これと同じように,伝送線路にも固有の特性インピーダンスというものがあり,単位はΩ(オーム)で表します.ただし電気抵抗のΩとは意味合いが異なるので,テスタで測定することはできません.
特性インピーダンスは伝送線路の材質や構造などによって決まります.同じ特性インピーダンスが連続していれば高周波信号はスムーズに伝わりますが,途中に特性インピーダンスの不連続な部分があると,そこで一部の高周波信号が反射します(図A).反射が起こると,それが損失になったり波形が乱れたりするので,高周波回路では基本的に特性インピーダンスを一定に保つ設計を行います.また,データ転送速度が480Mbpsのハイ・スピード・モードのUSBやPCI Expressなどの高速ディジタル・インターフェースでもこのような考え方が重要になってきます.
特性インピーダンスに不連続点があると,送った高周波信号の一部が伝わらない
高周波回路では,特性インピーダンスが不連続になる部分をなるべく作らないように設計しますが,どうしても特性インピーダンスが異なってしまう場合があります.例えば50Ωの伝送線路の先に30Ωのアンテナを接続するような場合です.このとき,伝送線路とアンテナの間に特性インピーダンスを変換する回路を挿入します.これをマッチング回路と呼び,このような回路を入れて特性インピーダンスを合わせることを「マッチングをとる」といいます.マッチングをとると,30Ωのアンテナから見た伝送線路は30Ωに見え,伝送線路からはアンテナが50Ωに見えるため,反射が起きません.