仮想デバッグ環境で動作するGoogleフォンのデモンストレーションが登場 ―― ET(Embedded Technology) 2007

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2007年12月18日

 2007年11月14日~16日,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて組み込み技術に関する展示会「ET(Embedded Technology)2007」が開催された(写真1).携帯電話メーカや携帯電話関連のソフトウェア・ベンダの事業モデルを揺るがす可能性のある「Googleフォン」のOS/開発環境を取り込んだデモンストレーションを,JTAG ICEベンダがいち早く公開した.

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[写真1] ET(Embedded Technology) 2007の会場風景
ET2007はパシフィコ横浜で開催された.

●"Android"はバーチャルなICE環境の夢を見るか?

 京都マイクロコンピュータは,オープン・ソースの携帯電話用プラットホーム「Android」を利用した仮想デバッグ環境のデモンストレーションを公開した(写真2).Androidは,いわゆる"Googleフォン"と呼ばれる携帯電話を実現するためのOS,ミドルウェア,およびソフトウェア開発環境の総称である.Google社,携帯電話メーカ,携帯電話事業者など34社が2007年11月に設立したOpen Handset Allianceが開発を進めている.

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[写真2] Googleフォンを仮想デバッグ環境上に構築
ARM v6の命令セット・シミュレータ上でAndroidのOSやミドルウェアを動作させ,京都マイクロコンピュータのデバッガ・ソフトウェアとつないだ.

 京都マイクロコンピュータは研究開発の一環として,オープン・ソースの命令セット・シミュレータ「QEMU」と同社のJTAG ICE(PARTNER-Jet)用デバッガ(ソフトウェア)を接続し,QEMUを仮想CPUとして利用する仮想デバッグ環境の構築を行っている.QEMUとJTAG ICE用デバッガの間のデータ交換はプロセス間通信によって実現する.今回,QEMUで模擬したCPUは携帯電話によく利用されているARM v6である.

 本環境を利用すると,例えば実際のマイコンを入手する前に,ある程度先行してソフトウェアの開発・デバッグを進められる.また,人海戦術でソフトウェアを開発するプロジェクトでは,ソフトウェア開発用のCPUボードを多数用意することが難しいケースもある.本環境であれば,コピー環境をいくつでも低コストで提供できる.さらにPARTNER-Jetユーザにとっては,仮想CPUによる開発環境と実CPUに基づくJTAG ICEのデバッグ環境のユーザ・インターフェースを共通化できるという利点もある.

 Androidは,上述のQEMUシミュレータをサポートしていた.そこで,AndroidのOSやミドルウェアを上記の仮想デバッグ環境上で実行してみたところ,あっさりと動作したという.京都マイクロコンピュータによると,オープン・ソースのQEMUは最近になって完成度が上がってきており,多少の改良は必要になるものの,実用に耐えうるレベルになってきたという.Androidのほかに,Linuxカーネルが本仮想デバッグ環境の上で動作している.本仮想デバッグ環境の製品化の時期は未定.どのような形態で顧客に提供していくかを検討しているという.

● PLCとZigBeeの両刀づかいで弱点克服

 ルネサス テクノロジは,電力線通信(PLC)とZigBeeを組み合わせたネットワーク・システムのデモンストレーションを行った(写真3).PLCとZigBeeを連携するプロトコル・スタック「Z2P」を開発し,ZigBeeプロトコル・スタック上に実装した.PLCは電力線の異相間や異系統間の通信経路を苦手とし,ZigBeeは壁を隔てた通信経路などを苦手とする.この二つの通信方式を連携させることにより,お互いの弱点を相互補完できるという.

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[写真3] 電力線通信とZigBeeを組み合わせる
上側にあるボードがZigBee評価キット,下側にあるのがPLC評価キットである.

 同社製のZigBee評価キットと日立超LSIシステムズ製のPLC評価キット,連携プロトコル・スタック「Z2P」を組み合わせて利用する.両評価キットは既に出荷中.

● 315MHz帯への拡大に対応した特定小電力無線モジュール

 サーキットデザインは,特定小電力無線の開発用モジュール「DU-1」を展示した(写真4).同社が国内販売代理店となっている米国RFMonolithics社のトランシーバLSI「TRC101」と,ルネサス テクノロジのH8マイコン「HD64F38602R」,米国Texas Instruments社のI/OエクスパンダIC「PCA9539」を搭載する.本モジュールは,今年(2007年),国内の特定小電力無線の使用帯域が315MHz帯まで拡大したことを受け,対応機器の開発需要が高まると予想して製品化したという.

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[写真4] DU-1の展示
上がDU-1モジュール,中央がRS-232-Cインターフェース・ボード(DU-IFB)である.

 本モジュールの使用周波数は315MHz帯(3チャネル).動作電圧は2.7~3.3V,消費電流は送信時30mA,受信時12mA,送信電力は-12~+8dBmである.伝送速度は最大4.8kbps.

 4チャネルの入力スイッチと4チャネルの接点入力,4チャネルの接点出力,4チャネルの出力LEDを備える.搭載するCPUとのインターフェースは同期式シリアルで,データ転送速度は9600bps.外形寸法は54×35×10mm,重量は14.5g.価格は10500円.

 RFMonolithics社のトランシーバLSI(TRC101)が対応する無線周波数は315MHz,433MHz,868MHz,915MHz,変調方式はFSK(frequency shift keying),伝送速度は最大256kbps以下である.

● ASIC手法を継承するセミカスタムのシステム・イン・パッケージ

 NECエレクトロニクスは,ユーザ論理を実現したゲートアレイ(またはエンベデッド・アレイ)と,NECエレクトロニクスが用意するマイコンを一つのパッケージに封止したセミカスタムのマルチチップ・モジュール「PFESiP(Platform for Embedded System in a Pckage)」,およびその評価ボードを展示した(写真5).PFESiPでは,パッケージ基板上にゲートアレイ・チップの1辺とマイコン・チップの1辺が対向するように実装し,それらの間を16ビット・バスまたは32ビット・バスで結線する.

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[写真5] PFESiP評価ボード
評価ボードでは,ゲートアレイ部分をFPGA(Virtex-4)によって実現している.

 1チップのCPUコア内蔵セル・ベースICを開発する場合と比べて,開発費を抑えられ,また開発期間も短縮できるという.例えば,マイコン・チップについてはNECエレクトロニクスが動作を保証するので,ユーザはゲートアレイ・チップ(ユーザ論理)のテスト方法だけを考えればよい.これにより,全体のテスト・コストを引き下げることができる.

 PFESiPの最初の製品として,同社は使用可能ゲート数が8万~24万のゲートアレイとV850マイコンを組み込んだモジュール「EP-1シリーズ」を発売する.ゲートアレイについては,外部バスのビット幅と使用可能ゲート数の異なる6品種のマスタを用意する.ユーザの使用可能I/O数は80または120.0.35μmルールのCMOSプロセス(EA-9HD)で製造する.V850マイコンは,100MHzまたは200MHzで動作するV850E2コア,192Kバイトの命令用RAM,USB 2.0ホスト/ターゲット・コントローラ(フルスピード・モード),タイマなどを内蔵する.電源電圧は,内部が1.5V,I/O部が3.3V.パッケージは,417~572ピンの5種類のBGAを用意する.

● FRAM内蔵マイコンのデータ書き換え回数をアピール

 富士通は,FRAM(強誘電体メモリ)内蔵マイコンとフラッシュ・メモリ内蔵マイコンを比較するデモンストレーションを行い,FRAM内蔵マイコンの優位性をアピールした.データの書き換え時間が,フラッシュROM内蔵品は217msであるのに対して,FRAM内蔵品は0.512msと,約1/400になる.また,FRAM領域の連続書き換えを行い,書き換え回数を7セグメントLEDに表示するデモンストレーションを行った(写真6)

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[写真6] FRAM内蔵8ビット・マイコンの連続書き換え評価
2007年5月から評価を続けているという.

 FRAMはデータの書き換え時間が短いので,マイコンにFRAMブロックを組み込んだ場合,FRAMをプログラム領域とデータ領域の区別なく使用できる.同社では,FRAMブロックを内蔵する8ビット・マイコンやRFIDタグ用LSI,スマートカード用LSIなどを出荷している.

● SystemCやHDLに対応するUMLツールを紹介

 スパークスシステムズジャパン(オーストラリアSparx Systems社の日本法人)は,UMLのクラス図から,LSI設計に利用されるシステム・レベル記述言語SystemC,およびハードウェア記述言語VHDL/Verilog HDLのコードを生成するツール「MDG Technology for Realtime Systems(仮称)」を紹介した.SystemCやVHDL,Verilog HDLのコードからクラス図を生成することもできる.さらに,UMLのステートマシン図や状態遷移表から,対応するSystemCやVHDL,Verilog HDL,C++,Java,C#,VisualBasic.NETのコードを生成することもできる.

 本ツールは,Sparx Systems社のUMLモデリング・ツール「Enterprise Architect」のオプションとして出荷される.2008年2月から出荷を開始する予定.

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