携帯電話に搭載される「D級アンプ」 ――LCフィルタが不要で高効率
●D級変調の方式が異なる
フィルタレスの原理を説明する前に,LCフィルタが必要な従来のD級アンプのPWM変調方式について説明します.
従来のPWM変調方式(Texas Instruments社のTPA005 D0xファミリなどが採用)は位相が互いに180度ずれた差動出力であり,グラウンドから電源電圧まで変化します.したがって,フィルタ前の差動出力は正負の電源電圧の間で変化し,フィルタされた50%のデューティ・サイクルで負荷に0Vがかかります.
従来のPWM変調方式の波形を図6に示します.平均で0V(50%デューティ・サイクル)が負荷に印加されるとは言っても,負荷電流は大きく,スピーカにおいて大きな損失が生じます.従来のPWM変調方式のまま直接スピーカに信号を入力すると,スピーカが過熱してしまい,消費電流が大きくなり,効率が落ちるどころかスピーカを傷める原因となってしまいます.リプル電流は電圧とその電圧の時間の積に比例するため,従来のD級変調手法のリプル電流は大きいものとなります.また,差動電圧振幅は2×Vccとなり,各電圧の時間は半サイクルになります.そこで,各半サイクルのリプル電流をその次の半サイクルのために蓄積しなければならず,理想的なLCフィルタが必要となります.
〔図6〕従来のPWM変調方式の無音時の波形
従来のPWM変調方式では,無音時の出力波形は差動の+側の出力と-側の出力の位相が反転している.スピーカのインダクタンス成分に流れる電流は,スピーカ両端の電圧の積分波形になっている.このため出力をスピーカに直結するとスピーカに過大な電流が流れ,スピーカを傷めることがある.出力とスピーカの間にLCフィルタを挿入するとリプル電流がコンデンサに蓄積されるため,スピーカに電流が流れない.