携帯電話に搭載される「D級アンプ」 ――LCフィルタが不要で高効率
一方,図5のような完全な差動信号線路では,ICの内部でもRFノイズや電源変動がキャンセルされるため,ノイズが大幅に低減されます.差動方式のアンプのRFノイズ耐性を図5(c)に示します.ここでは,オーディオ・アンプにTDMA(time division multiple access;時分割多元接続)方式の携帯電話を10cm程度まで近づけて,BTL出力の+側と-側の出力波形を測定しました.
図4(b)からわかるとおり,従来型の差動アンプはRFノイズの影響を受けて,-側の出力に大きなリプルが観測されています.これは再生する音声の品質に大きく影響し,ブーンというノイズを発生させます.一方,完全差動タイプのアンプでは,図5(c)に示すとおりRFノイズによるリプルは観測されておらず,RFノイズに対する耐性が高いことがわかります.
残念ながら,日本で一般的に使用されている音源LSIまたはCODEC LSIはシングルエンド出力のものが多く,完全差動出力のメリットを十分に生かせる機会は少ないようです.ただし,これら前段のICに基準電圧の出力がある場合,差動入力の片側に音声信号を,さらにもう片側に基準電圧を接続することにより,メリットを引き出すことができます.いずれにせよ,今後は差動出力のICが登場することが望まれます.
〔図5〕完全差動アンプの概略図
(a)は完全差動アンプの概略図である.(b)のように,入力,出力,電源,グラウンドで同相のノイズをキャンセルする.このため,RFノイズの除去に有効である.また,場合によっては入力側のカップリング・コンデンサが必要ない.(c)では,RFノイズを受けてもリプルが発生していない.