拝啓 半導体エンジニアさま(14) ―― 変化を象徴する「小さい」デバイス群の台頭
このところiPadのような機器が注目されているせいか,いろいろなところに掲載される分解記事なども,そのような系統の製品をターゲットとしたものが多いようです.前にも書いたように,面白そうなのでそのような記事はじっくりと読むのですが,残念なことに日本製の部品はそれほど多く搭載されていないようです.まだ,少しは入っているだけマシ,といったところでしょうか.かつての日本半導体の黄金時代を記憶している筆者としては,寂しい限りです.
●かつての目立たぬ脇役たちが存在感を増している
まあW杯(サッカー・ワールドカップ)でもないので,どこの国のデバイスかはさておき,面白そうなデバイスがないかと見ていると存在感を増しているデバイスの一群があることに気づきます.メインのプロセッサでもメモリでも,ましてやシステムLSIでもない「小さい」デバイスの一群です.電源関係のデバイスであったり,発振デバイスであったり,センサであったり.かつては目立たぬ脇役であったものが,このごろ妙に存在感を増しているように思われます.
昔の設計プロセスであれば,システムの性能を左右するキー・デバイスとして,まずメインのプロセッサなどが早々と決められたと思います.それに比べると電源系のICなどは,システム全体の設計が進んだあと,量産も近くなって,お尻に火がついてから入手性とか値段だけで最後にちょこっと決められていたものです.あるいは,メインのプロセッサのリファレンス設計で使われていたものがそのまま「右へ習え」で採用になったり,はたまた「伝統」的に「これでよい」ということで,いつも同じものだったり.機能がどうだとかいう話は,あまり表にでない類のデバイスだったはずです.
それが今や,システムの企画全体を支える「必須」の機能として浮上してきたような感じがします.こうした「小さい」デバイスに,「これでないと(実現できない)」といった必然性を感じるのです.ひるがえって,プロセッサなどはどこの会社のものでもさほど機能的な違いはなく(特にARMコアを搭載したプロセッサならソフトウェアの違いも気にならない),システムの差異化の決めてとはなっていないように見えます.
●「情報」の流れと「エネルギー」の流れが一体に
そういう傾向の背後にあるトレンドを考えて見ます.どうもそこには「エレクトロニクス(電子)」と「エレクトリック(電気)」の融合,あるいはより広い分野に「エレクトロニクス」が「拡散」せざるをえなくなった,という現象があるのではないかと思うのです.もとより「エレクトロニクス」に従事している方々の多くは,学校でまず「エレクトリック」的なことを基礎として習います.「エレクトリック」抜きに「エレクトロニクス」が成り立たないのはよくご存じでしょう.
このごろの現象は,「エネルギー」と「情報」に分かれてお互いに住み分けていた世界が急速に融合しつつあるのだと思います.確かに昔から電力伝送系の制御にコンピュータは使われていましたが,今のように非常に細粒度でかつ自律的な情報のやりとりを「エネルギー系」から迫られるような事態はなかったように思います.これからはエネルギーの流れと情報の流れを一体化することが求められそうです.すると,せいぜい3Vとか1.8Vで何mAといったオーダで考えていたエレクトロニクスの技術者も,数千V,数百Aといった「けた」が違う世界と向き合うことが頻繁に起こるでしょう.
また,「情報」を扱っていた「エレクトロニクス」側としては,以前は「エネルギー」側に求めることは,とにかく安定的にエネルギーを供給してくれればOKといった態度でした.エネルギーがどうやって送られてくるのかは自分たちの範ちゅう外で,知らなくてもよかったのです.
しかし,電池で動かすための制御がだんだんと複雑化し,ついにはローカルに発電を行い,光や熱や振動などの環境エネルギーから動作のためのエネルギーをとりだす,といったステージにまで近づいています.こうなると「情報」の世界だけで納まりきらず,「エネルギー」,それも電気エネルギーだけでなく,熱力学的,機械的,流体力学的な分野にまで取り扱い領域を広げないとシステムとして完結しません.センシングなどの分野を考えると,今後は化学的な現象や量子力学的な現象までもがシステムの中に入ってきます.
そのような要求をとらえた「小さい」デバイスが,最近,あちこちから出てきているようです.面白くなってきた感じがします.でも,この分野も積極的にしかけているのは海外勢で,日本勢は凹んだままのような感じです.こちらの日本代表も世界に存在感をアピールできるように頑張らないといけないですね.
ジョセフ・はんげつ