参考回路,原理解説,設計上の注意点をバランスよく1冊にまとめた電源回路の解説書 ―― 『電源IC応用ハンドブック』

森田 一

tag: 半導体 電子回路

書評 2010年11月23日

 

 

『電源IC応用ハンドブック』
浜田 智 編著
CQ出版社
JAN:9784789841276
B5変型判,240ページ
2010年9月
2,940円(税込)
「CQ出版WebShop」で購入

 

 

 

 時に激しく,また時に艶やかに演じられる能の演目.評者のように能に造詣のない者は,つい「シテ」と呼ばれる主役に目を奪われがちです.しかし一つの舞台には,「ワキ」などの共演者や,「地方(じかた)」と呼ばれる謡(うたい)の担当の裏方など,たくさんの人がかかわっています.舞台は,これらすべての人が最高のパフォーマンスを演じることで,初めて成功します.

 一方,電子回路を考えてみると,例えばテレビであれば画質や操作性などの面に注目が集まりがちですが,電源回路はなかかなその存在が表に出てきません.電源回路に目が向けられるのは,不具合が起こったときくらいのものです.このため回路設計者も,つい電源回路を軽視しがちです.

 しかし,電源回路は電子回路の動作の根幹をなすものであり,本来軽視してよいものではありません.さらに,電子回路が消費するエネルギーのすべてを引き受ける回路なので,小信号回路の設計しか経験していないエンジニアにとっては敷居が高くなりがちです.このような状況から,いざ回路を設計する段階になって,電源回路をどのように取り扱えばよいのか途方にくれることも多いかと思います.

 ところが,電源回路についての書籍は極めて少なく,その上,電源回路の理論的解説書といわゆる実務書・回路集がその大半を占めています.もちろん,理論的解説書は重要ですが,「今すぐ」電源回路を設計しなければならない場合は,なかなか参考になりません.一方,いわゆる実務書・回路集には,参考になる回路が多く出ていますから,これらをコピーすればとりあえず形になるものはでき上がります.しかし,回路をコピーしているだけでは回路の理解にはほど遠く,エンジニアとしての成長は期待できません.結果として,トラブルが起きた場合にどこから手を付ければよいのか,皆目分からない状況になります.

 本書は,もちろん理論的解説書ではありません.回路設計にすぐ利用できる参考回路が豊富に記載されています.ですが,よくある実務書・回路集のように参考回路を提示して終了,としているわけでもありません.入門編では,紹介したICの内部回路や動作原理の解説を加えることで,電源回路の動作について少しでも深く理解できるように工夫されています.また応用編では,確実に動作する電源回路を設計できるように,電源ICを使用する際に犯しがちな設計ミスについて注意を喚起しています.このような点で,いわゆる実務書・回路集といった書籍とは一線を画したものに仕上がっています.

 編著者の浜田氏も前書きで触れているように,若干古いタイプのICが紹介されている部分もありますが,入門編で回路の動作原理を理解し,応用編に書かれている注意点に気をつけることで,本書に出ていない最新のICを使用して電源回路を設計することも可能だと思います.

 どんな書籍でもそうですが,本書を1冊読んだだけで回路設計をマスタできるわけではありません.「今すぐ」電源回路を設計しなければならないときに,急場しのぎとして本書を利用するだけではなく,自分の手を動かして紹介されている回路を実際に動作させてみることが重要です.本書を読んで疑問に思った点などは,理論的解説書を参照しながら自分で考えることで,いっそう電源回路への造詣が深まることでしょう.

 

もりた・はじめ

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日