ポストPC時代のキーワード「エンベデッド」のすべて ――転換点はカー・ナビゲーション・システム
3.組み込みシステムの事例 ――カーナビ
リアルタイムOSが民生品に採用される転機となったのは,カー・ナビゲーション・システム(以下,カーナビ)であった.
カーナビを構成する要素技術に注目すると,GPS(grobal positioning system)やジャイロスコープといった,もともと航空宇宙や軍需向けに開発された技術がすぐに思いあたる.興味深いのは,そうした専門メーカがカーナビを市販車向けに民生化したわけではなく,カー・オーディオ・メーカがこれらの技術を導入し,独自のノウハウを昇華させて製品化している点である.仕様面,品質面,コスト面,生産技術面において,ハイエンドの産業機器メーカが簡単に参入できないのが日本の民生市場であり,カーナビの場合も例外ではなかった.
先端技術を取り入れて使いこなしていく上手さに関しても,やはりグローバルな市場で生き残っている日本企業の強みといえよう.カーナビは早い段階からRISCプロセッサやリアルタイムOSを取り入れ,民生市場における組み込み技術導入の牽引役となった.今日のディジタル家電の草分けといえよう(写真1).
カーナビは,市販車用としては後付けのオプション製品であったが,現在ではVICS(vehicle information and communication system)による交通渋滞情報を提供するインフラも整備され,標準搭載されている車種も少なくない.今後はインターネット端末としての性格を強めていくであろうし,ETC(electronic tool collection system)による自動課金システムの端末としての機能も備えてきている.また,インフラ系の整備やコンテンツ・サービスの充実とともに大きなネットワーク・サービスとリンクしてきている.
〔写真1〕DVD099(アルパイン製).メモリ・スティックでパソコンとのデータ交換が可能.iモードにも対応している