ポストPC時代のキーワード「エンベデッド」のすべて ――転換点はカー・ナビゲーション・システム
2.制御系ではじまった組み込み化の流れ
筆者の組み込みシステムとの関係は,1989年頃からリアルタイムOSの事業に関わることから始まった.
●おもに制御系で利用されていたリアルタイムOS
当時,ディジタル家電などという分野は存在せず,リアルタイムOSのアプリケーションというと,飛行機の自動操縦装置,道路交通信号の制御装置,公衆回線網の伝送装置,ページャ(ポケベル)の基地局,工作機械の制御装置,医療機器,ハイエンドOA機器(ネットワーク・プリンタなど)といった大がかりなものばかりであった.
32ビットのマイクロプロセッサの用途といえば,パソコンやワークステーション向けか,それ以外の制御系組み込みシステムに限られていたといっても過言ではない.
●制御系ではリアルタイム性が要求される
この制御系組み込みシステムにおいて「組み込み」がもつ意味は,空調が完備されたコンピュータ・ルームで稼働するコンピュータでは対処できない,動作環境が苛酷なものを意味する場合がほとんどであった.温度,ほこり,振動などの面において,制御系組み込みシステムはロバスト(堅牢)にできていなければならなかった.
このため,ハード・ディスクや冷却ファンといったメカニカルな部品はことごとく排除され,ソフトウェアをROM化することが前提となった.「ROM化=組み込み」という図式は現在でも通用すると思うが,制御系組み込みシステムに求められる,それ以上に重要な要求仕様に「リアルタイム性(実時間での動作)」というものがあった.