μITRONとCE.NETを統合して動作させる環境が早くも登場 ――ET(Embedded Technology) 2003

組み込みネット編集部

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レポート 2003年11月17日

 2003年11月12日~14日,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて組み込み技術に関する展示会「ET(Embedded Technology) 2003」が開催された(写真1).μITRON準拠のリアルタイムOSやソフトウェア開発環境を出荷しているイーソルは,μITRONとWindows CE.NETを統合した動作させる環境を発表した.このほか,RF(radio frequency;無線周波数)を活用したユビキタス向けの製品や車載関連の製品が多数展示されていた.

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[写真1] ET2003
ET2003はパシフィコ横浜で開催された.

●イーソルがμITRONとCE.NETを統合した環境のデモを公開

 イーソルは,μITRON4.0仕様に準拠したOS(PrKERNELv4)とWindows CE.NETを統合した環境「PrKERNELv4 for Windows CE.NET」を発表した(写真2(a)).μITRON上で動作するソフトウェア(アプリケーション・ソフトウェアやデバイス・ドライバ)とWindows CE.NET上で動作するソフトウェアについて,タスクやスレッドの優先度をμITRON側で一括管理し,必要に応じてタスク切り替えなどを行う.同期制御や排他制御,通信も行える.この環境は現在開発中であり,2004年3月の出荷を予定している.また,横河ディジタルコンピュータが,この統合環境に関する技術サポートを行うことや,両OSに対応するデバッグ・ツール「advicePLUS」を提供することを表明した.

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[写真2(a)] 発表を行うイーソル 代表取締役社長の澤田 勉氏
今回の発表は技術が完成した段階の発表であり,実際の製品はまだ開発中であるという.

 NECエレクトロニクス 企画本部シニアソフトウェア戦略プロフェッショナルで,ET2003企画委員会 正幹事の門田 浩氏は,「かつての携帯電話は,すばやく相手につながり,通話できればよかった.今の携帯電話はいろんな機能を搭載しており,ほとんど情報処理機器.ITRONではすべてのニーズをカバーできない」と述べ,μITRONとWindows CE.NETが協調動作する環境が提供されることを歓迎した.

 PrKERNELv4 for Windows CE.NETには,Windows CE.NETのカーネルがそっくり含まれている.Windows CE.NETのソース・コードについては,μITRONにトリガを出すための変更を加えるなど,小規模な変更にとどまった.一方,それを受ける側のμITRONは,Windows CE.NETに対するサービス・コールを追加するなどの大幅な変更を行っているという.

 また,ET2003のイーソルのブースでは,この統合環境のデモンストレーションが行われた(写真2(b)).

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[写真2(b)] 統合OS「PrKERNELv4 for Windows CE.NET」のデモンストレーション
ディスプレイの下の部分に表示されているのがμITRON上で動作しているアプリケーション・ソフトウェア,上の部分に表示されているのがWindows CE.NET上で動作しているアプリケーション・ソフトウェア.まだ開発中ということで,割り込みやタスク切り替えが確認できるようなデモンストレーションは行われなかった.

●セイコーエプソンが温度センシング無線システムを展示

 ET 2003の展示会場では,ユビキタスや携帯機器などの応用をねらったシステムやモジュール,LSIが多数展示されていた.

 セイコーエプソンは,センサなどの測定結果を特定小電力無線などで知らせるシステムを展示した(写真3).今回の展示会では,温度センサと組み合わせるデモンストレーションを披露した.温度計測と送信を行う端末には8ビットCPUと温度センサ,RF(特定小電力無線)が組み込まれている.

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[写真3(a)] 温度計測端末側(PB140256)
特定小電力無線の場合,写真のようなアンテナを使えば,100m以上の見通し距離で通信できる.このほか微弱無線にも対応可能.アンテナが目立たない代わりに,通信距離は短くなる.

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[写真3(b)] 計測データ受信側(PB140257)
五つの端末から受信したデータをグラフで表示しているところ.

●電波による補正機能を持つRTCモジュール,量産時は10mm角に

 さらに同社は,標準時刻電波を利用して時刻を自動補正するRTC(real time clock)モジュールも展示した(写真4).本モジュールにはRTC ICと受信用RF ICが組み込まれている.サンプル・モジュールの外形寸法は25mm角程度だが,量産時には10mm角になるという.電波時計のほか,時計機能を備える携帯機器や家電機器,車載機器,時刻認証機能が必要な電子決済用機器などでの利用を想定している.

 1~2局の標準時刻電波を自動的に選局できる.時刻の誤差は±0.5s(秒).電波を受信する時刻や受信回数(2~4回)をユーザが設定できる.動作電圧範囲は2.4V~3.6V.消費電流は1.5μA程度と少ない(1日1回,電波を受信した場合).また,さらに精度の高い時刻情報を取得できるように,本モジュールにGPS(Global Positioning System)受信機能を組み込むことも検討しているという.

 すでに数社にサンプル・モジュールを提供している.量産出荷は2004年春からの予定.

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[写真4] 25mm角の自動補正機能付きRTCモジュール
曜,日,時,分のアラーム割り込み機能や周波数選択可能なクロック出力機能,受信状態や時刻更新処理の検出機能,自動うるう年補正機能などを備えている.

●ティアンドデイ,48mm×63.5mmのWebサーバ・モジュールを展示

 ティアンドデイは,外形寸法が48mm×63.5mm×5.5mmのWebサーバ・モジュール「ProDigio WSC311」を展示した(写真5).同社は,インターネット用のプロトコル処理回路や周辺インターフェース回路,ファイル処理回路などを1チップに集積したASIC「WSC31」を開発した.このASICとSH-3プロセッサ,フラッシュ・メモリ,SRAMなどを一つの基板に実装した.データ収集装置やセンサなどで取り込んだ情報をインターネット経由で送信したり,インターネットを介して表示装置や出力装置などを遠隔操作するような用途を想定している.

 周辺インターフェースとして,USBホスト/ファンクション・インターフェース,CompactFlashインターフェース(2チャネル),シリアルI/O,パラレルI/O(16チャネル),I2Cインターフェースを備えている.USBインターフェースは,ディジタル・カメラのデータの取り込みに対応している.また,CompactFlashインターフェースにはLANカード(Ethernet)やワイヤレスLANカード,PHSカードなどを接続できる.さらに,A-Dコンバータも内蔵している.

 インターネット用のプロトコル処理については,ARP(address resolution protocol),ICMP(internet control message protocol),TCP(transmission control protocol),HTTP(hypertext transfer protocol),DHCP(dynamic host configuration protocol),FTP(file transfer protocol),SNMP(simple network management protocol),SMTP(simple mail transfer protocol),SNTP(simple network time protocol),PPP(point-to-point protocol)といった規格をサポートしている.SSL(secure socket layer)などのデータ暗号化には対応していない.

 電源電圧は3.3V.160ピン・コネクタによって外部機器と接続する.PerlやBasicに似た独自スクリプトを使って,周辺機器や周辺LSIとのインターフェースなどをカスタマイズできる.2004年春に出荷を開始する予定.また,基板実装を行わず,ASICやメモリなどをチップセットの形態でも出荷する予定.

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[写真5] 48mm×63.5mmの小型Webサーバ・モジュール
Webサーバとして動作する.ファイル・システムが内蔵されている.Webブラウザ経由でモジュールの内部や周辺機器を制御できる.メールを送信したり,Webカメラを接続することもできる.

●45°のずれを補正できる携帯電話向け名刺読み取りミドルウェア

 オムロン ソフトウェアは,カメラ付き携帯電話用の文字認識ミドルウェア「MOBILE OmCR」のデモンストレーションを行った.携帯電話のカメラで名刺を撮影したあと,本ミドルウェアを用いて文字認識を行う.文字認識によって得られた氏名や会社名,電話番号,メール・アドレス,ホームページのURLなどの情報は携帯電話のアドレス帳に転送できる.

 文字認識の機能を備える携帯電話はすでに製品化されているが,その多くは撮影する際に規定の枠に文字が入るようにユーザが位置を調整する必要がある.一方,本ミドルウェアを使うと,±45°までの傾きを自動補正して文字認識を行える(写真6).最近の携帯電話では100万画素のカメラを搭載しているものも少なくない.100万画素程度の解像度(1280×1024)があれば,漢字なども問題なく認識できるという.

 2003年11月末には英数字対応版のサンプル出荷を開始する予定.日本語対応版も近日中に発売するという.認識できる文字のサイズは,英数字対応版が32ドット角以上,日本語対応版が48ドット角以上.OCR(光学式文字認識)の処理速度は,英数字対応版が20文字/s,日本語対応版が10文字/s.プログラムROM領域として250Kバイトを用意する必要がある.また,辞書用メモリとして,英数字対応版が80Kバイトの,日本語対応版が1.3MバイトのROMを使用する.

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[写真6] 名刺の文字認識
カメラで名刺を撮影して文字認識を行うデモンストレーションのようす.文字領域の抽出は手動でも可能.「TEL」や「株式会社」などのキーワードによって,情報の分類を行う.本デモンストレーションでは,英数字は問題なく認識できたが,日本語については文字化けする箇所もあった.

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