つながるワイヤレス通信機器の開発手法(9) ――開発・検証環境を整備する
●無線区間と外乱をモデリング
ノイズ,マルチパス,妨害波のモデルの例を図2に示す.図2は,送信機TX1から送信され,二つの経路(パス)を通ってきた信号と,妨害波を出す送信機TX2の信号,およびノイズが受信機RXに到達していることを示している.また,二つの経路には,それぞれの距離による時間遅れ(ΔT1,ΔT2)と減衰(G1,G2)が存在する.これは,あくまでも一つの例である.ワイヤレス通信機器の設計では,通信仕様ごとに異なる無線区間のモデルを作成し,このモデルをもとに必要な性能が確保されているかどうかを確認する.
自然事象に起因する外乱も含めて通信系全体を検証するためのツールとして,信号処理システムの解析に特化したシステム・レベル・シミュレータがある.この信号処理システム・シミュレータは,図2のようなモデルを取り扱える.また,さまざまな通信規格に対応したハードウェアやソフトウェアのビヘイビア・モデルなども用意している.
信号処理システム用シミュレータの入力では,グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を利用する場合と,C言語やSystemCのような設計言語を利用する場合がある.こうしたツールには,米国Cadence Design Systems社の「SPW(Signal Processing Worksystem)」や米国Synopsys社の「CoCentric System Studio」などがある(図3).
〔図2〕外乱をモデル化
送信機TX1と受信機RXが通信を行うものとする.図では,TX1の信号が二つの経路(マルチパス)を通り,かつ,別の送信機TX2の妨害波とノイズがRXに届いているようすを示している.
〔図3〕信号処理システム・シミュレータの例
Synopsys社が提供しているツール群.CoCentric System Studioは,GUIを備える信号処理システム・シミュレータである.