成功する社内コミュニティの作り方(1) ―― MATLABの技術交流会を主宰して...

斎藤 睦巳

 皆さんは社内の通常業務とは別に,社内のコミュニティ活動に参加されているでしょうか? コミュニティとは呼ばなくても,勉強会や技術交流会といった名称の集まりに参加されたことが一度はあるのではないでしょうか? 最初は興味があって参加しても,2回目,3回目と進むにつれて,「業務が忙しい」とか,「この話はもう分かっているので...」と理由をつけて,だんだん足が遠ざかっている人はいませんか?

 筆者も以前はそうでした.しかし,自分自身が技術交流会などを主宰するようになり,コミュニティ運営の苦労や楽しさが分かってくるにつれて,コミュニティに対する見方も変わってきました.本コラムでは,コミュニティについての筆者の経験や現在取り組んでいる活動について,2回に分けて紹介します.

●継続には「明確な目的」,「強い意志」,「サポート・メンバ」が必要

 筆者は,日々MATLABやC言語のモデルを作成し,ファームウェアとハードウェアの設計を行う信号処理系のエンジニアです.信号処理システムの開発ではさまざまな設計ツールを活用する必要があり,エンジニア間でツールや設計手法に関する情報を共有することも重要です.こうした情報共有を目的とした技術交流会などのコミュニティを筆者自身が立ち上げたことがあり,うまくいった場合もあれば,失敗した経験もあります.

 まず,筆者自身の過去の失敗体験を紹介します.数年前に社内でコミュニティ活動が推奨された時期があり,筆者もコミュニティを立ち上げました.これはある技術分野について最近の研究開発動向を調査しよう,というものでした.自分自身がやりたかったこともありますが,若手社員にとっても勉強になるだろうと思っていました,当初は活発に活動し,長く続けたいと思っていましたが,1年ほどで活動停止に至りました.

 当初は面白がって参加してくれていたメンバも,業務が忙しくなってくると「ごめんなさい」と言って欠席することが増えてきました.そういうことが続いているうちに,「これはメンバのためではなく,自分の自己満足でしかないのでは?」と考えるようになり,メンバに声をかけるのが辛くなってきました.実際,活動することそのものが目的となり,無理して活動していた部分もあったように思います.結果的に活動停止になって残念でしたが,正直ほっとした感じもありました.

 当時,コミュニティ活動の実績がその人の業務の成果として認められていたこともあり,筆者と同じように多少無理をしながら活動していた社員が何人かいました.しかし,ほとんどが短期間で活動停止してしまいました.活動の目的が明確で,その目的に対して継続するという強い意志があり,そしてそれをサポートするメンバが揃わないと,コミュニティ活動を続けていくことはなかなか難しいようです.

 また,筆者が立ち上げたコミュニティの活動は参加メンバのみに閉じていましたが,ほかのコミュニティの中には社内にオープンにしていて,いろいろな人から意見をもらって活動にフィードバックしているものもありました.今から考えると,そういうアプローチも必要だったと思います.

●半年に1回の頻度でMATLABの技術交流会を実施

 こうしたコミュニティ活動の失敗を経験したあと,社内で「MATLABコミュニティ」を立ち上げました.MATLABは米国Mathworks社が開発した,信号処理システムなどの数値演算のためのシミュレーション環境です(図1).もともと数値演算のモデルを組んでシミュレーションするために使われるものでしたが,最近では,MATLABのモデルをそのまま変換して,ソフトウェアやハードウェアへ実装する事例も増えています.

図1 MATLABの画面例

 

 「MATLABコミュニティ」の設立当時,社内のMATLABユーザはそれぞれ別々の部署に存在し,ほとんど情報交換ができていない状況でした.筆者は社内では最古参のMATLABユーザであり,「MATLABについて教えてほしい」,という問い合わせがよく来ていました.質問される機会も増えていき,ユーザ間で情報を共有できる場を作ったほうが良さそうだと考えて,MATLABコミュニティを立ち上げました.気軽な気持ちで立ち上げたのですが,細々ながら現在も続けられているのは不思議な感じもします.

 このコミュニティは,半年に1回の頻度で実施している社内の技術交流会を中心に活動しています(写真1).これは顔を合わせての情報交換会です.社内のMATLABユーザが持ち回りで,適用事例や今後やりたいこと,困っていることなどを発表します.この技術交流会は好評で,毎回活発な意見交換が行われています.参加者は現場の設計者です.特に,これからMATLABを設計に活用したいという人が積極的に参加してくれています.逆に,ある程度以上使いこなしている方は,「たいした情報も聞けないだろう」と考えるのか,あまり参加してくれません.この部分の改善が今後の課題と思い,技術交流会の進め方を考え直しているところです.

写真1 技術交流会

 

 技術交流会における話題は,MATLABのモデルを効率的にDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)やハードウェアに実装する工夫やノウハウを中心にしています.筆者の勤務する会社は,開発設計の専門企業です.MATLABで一から信号処理モデルを組むこともありますが,依頼元が作成したMATLABのモデルをDSPやハードウェアに実装する案件も少なくありません.MATLABモデルの実装では,サード・パーティ製のアドオン・ツールがあり(例えばFPGAに実装するための専用ライブラリなど),そういったツールを使った設計事例は,他部署でこれから設計に取り組もうとしている人にとって有益な情報となります.技術交流会では,そういった生の情報が交換できるように心掛けています.

 また技術交流会とは別に,少人数が集まって適宜,情報交換することもあります.例えば,MATLABに慣れていないメンバに対して,MATLABでどのようなことができるかといった話や使い方などを紹介しています.MATLABは一般のソフトウェアやハードウェアの開発環境に比べると,実際のコーディング(モデリング)や検証についての情報が不足しているように思います.そのため,このような場を設けてユーザ同士が情報交換することが非常に重要だと思います.

 

 

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