車載LANと42V電源系の動向 ――高性能化,高機能化が求められる車載機器の開発
3.「カーエレ」は特殊な世界か?
民生機器と異なり,車載機器では制御している最中に故障が発生した場合,人命にかかわる事故の原因となる可能性があります.このため,車載機器では民生機器より高い10Fit注2/10ppm注3以下という目標値を掲げて製品を開発している場合があります.そして,不良が1個発生するたびに原因を特定して不良率をなくすことを求められるので,メーカは品質改善のための体制を確立する必要があります.
この要求に対応するため,半導体メーカでは製品に欠陥がない状態で出荷するように絶えず取り組んでいます.製造プロセスがムーアの法則に従い18ヵ月で2倍の回路規模を取り込めるように発展しているため,新製品を開発するときの故障回路検出用のテスト・プログラムの開発期間が飛躍的に増大してきています.最新の32ビット・マイコンを開発する場合には,回路規模が1,000万トランジスタを超えているため,テスト・パターンの開発には十分な時間をかける必要があります.そこで,EDAツールを活用して回路レベルで故障シミュレーションを実施し,人的作業のミスをなくして出荷できる体制を整備しています.
また,製品開発面では事故を防止するために,つねに安全な場所まで移動できるだけの最低限の動作注4 や,故障が発生した場合に乗員へ通知する機能などが車載機器に求められています.この要求に対応するため,通常の制御処理に比べて2倍以上の回路規模と回路性能,および検証作業が必要となります.また,自動車を販売した後で故障が起きた場合,まず故障原因が単発的なものなのか,類似する問題が発生するのかを分析しなくてはなりません.後者の場合,最悪,リコールとなることもあるため,自動車メーカだけでなく部品を供給する会社にも迅速に対応できる体制を整えることが求められます.
注2;Fit(failure in time)は初期故障・偶発故障期間の故障率を示す.1Fit(1×10-9)は,10億個出荷した場合,その使用期間中に1時間当たり1個の不良しか許さないことを示す.
注3;1ppm(part per million=1×10-6)は,100万個出荷時に1個の不良しか許さないことを示す.
注4;例えば,エンジンであれば安全な場所まで移動できる最低限の速度,ABSであればブレーキ制御は行えないがペダルを踏むとブレーキがかかり止まれることなど.