車載アプリケーション・ソフトウェアの移植性を高める通信仕様とその実装 ――下位層を意識せずECU間のインターフェイスを実現する「OSEK COM」

服部博行

tag: 組み込み

技術解説 2005年10月20日

●○● Column  ●○●
CAN通信との親和性が高い

 本文では,OSEK COMの外部通信において通信デバイスは特定しないと述べました.しかし,実はCOMはCAN通信と親和性が高い仕様です.ともとOSEK COMの仕様書にはCAN通信を想定していることが明記されています.とくに,以下の三つの特徴から,CAN以外の通信はあまり想定していないと考えられます.

1) フィルタリング処理

 フィルタリング処理は,通信タイミングに密接にかかわる機能です.フィルタリング処理は,送信データが変化したタイミングをとらえるために利用されると思われます.すなわち,データが変化するタイミングでデータの送信を行うという場合に利用される機能と言えます.このようなイベントによるデータ送信は,CAN通信とは親和性が高いと思われます注A-1

 一方,LINの場合,たとえデータが変化したというイベントを認識したとしても,送信タイミングはマスタ・ノードECUが管理しているため,すべてのメッセージは周期的に送信されます注A-2.つまり,イベントによる送信は考えられません.また,次世代の車載ネットワークとして注目されているFlexRayはネットワーク全体で各メッセージの送信スケジュールが規定されている方式であるため,OSEK COMを利用するメリットは大きくありません.

 ただし,LINやFlexRayでも受信時にフィルタリング処理を利用することは考えられます(例えば,受信したデータが変化しているかどうかで処理実行の有無を判断する).

2) Dynamic-length message(可変長メッセージ)

 Dynamic-length messageは,メッセージ長の最大長は規定されているものの,それ以下のメッセージであれば動的に変更できる機能です.CANは,この機能をサポートしているため利用可能です.しかし,LINは静的にメッセージ長が決定されているため,利用することができません.

3) 通知機能

 CAN通信のデータ送信は静的に送信スケジュールが決定されていないため,データ受信時などは通知機能を用いるほうがアプリケーションの開発には効率的であると考えられます.

 しかし,LINなどに代表される周期送信方式の通信では,かならずしも通知機能は必要なく,ポーリングによる受信で問題ありません.

 このように,OSEK COM仕様の下位層(UL:Underlying Layer)がまさにCAN通信の特徴をそのまま要求しているため,CAN通信との親和性が高いと考えます.

 すなわち,CANはマルチマスタ方式(どのノードでもデータ送信を開始できる)で,データはECUごとの時間(タイミング)で送信します.このような特徴がそのままCOM仕様に結びついています.

 シングルマスタ方式のLINでは,ノードみずからがなんらかのイベントでデータを送信することは想定されていません.また,FlexRayはネットワーク上に時間情報を保有しています.この考えはOSEK COMに含まれていません.そのため,OSEK COMではFlexRayへの対応が難しく,OSEK/VDXが策定する「FT-COM(タイム・トリガのアクセス方式をとり,耐故障性を備えた仕様)」に類似したCOM仕様が必要となります.

 注A-1;CANのアクセス方式はイベント・ドリブン(事象駆動)である.なんらかのイベントの発生によってメッセージ送信を行う.  注A-2;LINのネットワーク・トポロジは,一つのマスタ・ノードと複数のスレーブ・ノードからなる.あらかじめ定められたスケジュールでマスタ・ノードがスレーブ・ノードと通信を行う.つまり,周期送信のみを扱うことができる.

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