マイクロ波帯のMEMS応用技術の動向 ――RF MEMSは課題を克服し,無線機器の性能向上に貢献できるか?
●MEMSスイッチの課題は「寿命」
以上のように,MEMS スイッチはすでにいくつかの応用分野から注目されているのですが,その実用化に際してはこれから解決していかなければならない課題があります.その一つは,アクチュエータ駆動電圧を下げることです.最近の成果として,例えばスイッチの機械的な構造をくふうすることによって,5V~6Vまで駆動電圧を下げることに成功しています15).
また,寿命(信頼性)に関する研究も盛んになってきています.オーミック型(DC接触型)スイッチでは接触部の損傷が,キャパシティブ型(容量型)スイッチでは薄膜のチャージアップによる電極の付着(stiction)が寿命低下の主原因です.
オーミック型では,スイッチ動作を数多く行うことによって接触部の抵抗が増加していきます.これが接触部の損傷を招き,寿命低下の原因となります.このほか,有機物の付着や汚染なども寿命低下の原因になりますが,これは窒素などのガスの封入により低減できます.通
常,損傷の目安は,抵抗値が4Ω以上になる点により判断されています.
一方,キャパシティブ型のものでは,スイッチ動作の停止が寿命低下の原因となります.誘電体薄膜に電荷が注入されると,その静電力でスイッチ電極がお互いに付着してしまい,ON/OFFのどちらになるかは電荷の種類によって決まります.また,電荷注入の量は誘電体薄膜のトラップ(結晶欠陥)密度の大小により決まります.
現在のところ,オーミック型スイッチとキャパシティブ型スイッチの寿命は,ともに10億~100億回のON/OFF(サイクル)となっています.