ギガビット高速信号伝送を理解するための基礎知識(前編) ―― 差動信号伝送の歴史,規格の違いから終端処理まで

河西 基文

tag: 半導体 実装 電子回路

技術解説 2012年3月16日

ここでは,Gbpsクラスの高速信号伝送を包括的に理解するために必要となる基礎知識についてまとめる.高速伝送規格の概要,およびその発展の歴史について説明する.具体的にはRS-422,LVDS,PECL,CML,M-LVDSなどを紹介する.また,シグナル・インテグリティ対策の要となる終端処理にも触れる.(編集部)

 PCI Express,SATA(Serial ATA)/SAS(Serial Attached SCSI),eDP/iDP(DisplayPort),HDMI/DVI,USB 3.0,IEEE 1394b,Channel/FPD-LINK(通称LVDS),Thunderboltなど,私たちが使用しているコンピュータやディジタル家電では,数Gbpsの帯域を超える多種多様な高速通信の規格が使われています.これらは,それぞれ独自に開発されたものなのでしょうか? それとも他の仕様をまねたものなのでしょうか? 技術的に共通の部分は,どのくらいあるのでしょうか?

 ここでは,さまざまな高速伝送規格の概要,およびその発展の歴史について紹介します.

 

●物理層は通信機能の最下層

 OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルでは,コンピュータ・システムが通信について備えるべき機能を七つの層に分けて定義しています.物理層はこの7層の最下位に位置し,電気的な信号や媒体を定義しています.

 図1はOSI参照モデルの概念図です.7層に分けて通信機能を明確化することで,製品開発を容易にしたり,層単位でほかの仕様に転用したりできる便利な考え方です.例えば図1の右側は,ネットワーク機器における対応を示しています.1層,2層,3層のそれぞれがリピータ・ハブ,スイッチング・ハブ,ルータに相当する構成となっています.この階層化の概念を当てはめることにより,ネットワーク機器は安価に作れるようになり,市場が広がりました.

 

図1 OSI参照モデルと各層の役割

 

 本稿で解説する高速伝送規格もまた,コンピュータ・ネットワーク・システムの一つなので,このOSI参照モデルを基に説明できます.

 

 

●1978年に差動信号を使用するRS-422が登場

 皆さんはLVDS(Low Voltage Differential Signaling)やPECL(Positive Referenced Emitter Coupled Logic),CML(Current Mode Logic)といった言葉を聞いたり,実際に伝送に使ったりしたことがあるのではないかと思います.以下では,こうした差動信号伝送の歴史について紹介します.

 まず,通称「RS-422」と呼ばれる差動信号を使用した「EIA-422A」仕様が1978年に規定されました.産業機器で多く使用されており,民生機器では1980年中ごろ,米国Apple社がコンピュータ機器間の通信インターフェースにRS-422(LocaltalkプロトコルのPhoneNet)を採用しました.この方式では,図2のようなデイジ・チェーン(芋ずるのような接続)構成で,パソコン同士やプリンタ,モデムを接続していました.

 

図2 RS-422のデイジ・チェーン接続

 

 図3に,RS-422出力回路を示します.pMOSトランジスタとnMOSトランジスタからなる一般的なCMOS回路ですが,差動で2本に電流を流すため,左右2組のトランジスタが必要となります.

 

図3 RS-422出力のCMOS等価回路

 

 図3において右上の+側のpMOSがON,左下の+側のnMOSがONになると電流が伝送路に流れ,受信の終端抵抗部分で電位差が発生します.この状態が論理値'1'です.また,左上の-側のpMOSトランジスタがON,右下のnMOSトランジスタがONになると逆方向に電流が流れます.この状態が論理値'0'です.

 このRS-422は現在でもRS-232などの一般的なシングルエンド信号(信号線1本)のシリアル通信において汎用的に使用されています.特にケーブル延長が必要なとき,物理層のLSIを追加するだけで伝送距離を伸ばせる点が重宝されています.仕様上の伝送速度は最大10Mbpsとそれほど高速ではありません.

 その後,この仕様は1994年に「RS-422B(EIA/TIA-422B)」として更新されています.また,図4のような32台のマルチドロップ接続が可能な「RS-485(EIA/TIA-485)」が上位規格として開発されました.

 

図4 マルチドロップ接続

 

 RS-422の伝送速度は最大10Mbpsで,伝送距離は15m程度までです(115kbpsでは1.2kmまで).最近の規格と比べると,高速ではありません.高速化を阻む主な理由は振幅電圧,および信号の立ち上がり/立ち下がりの速度,すなわちエッジ・レートです.振幅が大きくてエッジ・レートが遅いと,信号がHighからLow,LowからHighにスイッチングするまでの時間がかかり,周波数を上げることができません.

 図5のような2種類の同じエッジ・レートの信号を比較してみましょう.振幅電圧が小さい信号はトグル周波数を高くできます.振幅が1/7で最大周波数は7倍になります.

 

図5 振幅電圧と最大周波数の関係

 

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日