実用化を見据えたRF MEMSに対する新しい考察 ――『RF MEMS Theory,Design,and Technology』
実用化を見据えたRF MEMSに対する新しい考察
Gabriel M. Rebeiz 著
John Wiley & Sons 刊
ISBN:0-471-20169-3
25.8×18cm
483ページ
10,754円(税別,amazon.co.jpの2003年4月15日現在の価格)2003年2月1日(初版第1版)
RF MEMSについて,その信頼性などの議論を含む待望の本がついに出た,といったところでしょうか.
著者のG. Rebeiz氏は,ミシガン大学教授であり,RF MEMS分野の第一人者です.彼は,カリフォルニア工科大学の大学院生だったころ,シリコンの異方性エッチングを用いたイメージング・アレイを提案・開発しました.これはRE MEMSの最初の,そして鮮やかな実例でした.同氏は,その後もこの分野で精力的な研究を進めています.また,RF MEMSに関する講演などのため,これまで何回も来日している親日家でもあります.
さて,本書は全体で15章,そして二つの付録の合計483ページからなっています.
第1章は序論です.この分野の簡単な歴史やMEMSデバイスの特徴,応用などがまとめられており,MEMSスイッチと半導体スイッチの比較などもここで述べられています.
第2章では,MEMSスイッチやバラクタなどを設計するための機械的なモデルについて述べています.はり状構造のスプリング定数を計算して,それをアクチュエートするのに必要な電圧などの計算例を示しています.第3章では,機械的な時間応答について解析しています.
第4章~第8章は,以下のようにMEMSスイッチについてていねいに解説しています.
- スイッチの等価回路の求めかた(第4章)
- これまでに開発されたスイッチの実例と,その性能(第5章)
- スイッチの製作,実装(packaging)(第6章)
- 信頼性(寿命)とスイッチが扱うことのできるRF電力(第7章)
- スイッチ回路の設計におけるバイアスの方法やCPW(Coplanar Waveguide),マイクロストリップ線路への組み込みかた(第8章)
特に,第7章の内容はスイッチの実用化において極めて重要な問題ですが,これまで類書では扱われていませんでした.
第9章は,実例を挙げながら主にスイッチを用いた移相器について説明しています.第10章は,MEMSデバイスを分布定数的に配置した線路 (DMTL:distributed MEMS transmission line) についての記述であり,特に容量を周期的に装荷した移相器について述べています.
第11章と第12章では,それぞれMEMSバラクタおよびMEMSインダクタについて述べています.第13章は,フィルタやアンテナについての リコンフィギャラブル(再構築可能)な構造を紹介しています.
第14章では,ブラウン運動などによるMEMS構造の変動に起因するノイズについて考察しています.これも類書では見られない本書の特徴です.
最後の第15章では,全章のまとめと,RF MEMSデバイスが普及するために解決する必要がある問題を示しています.例えばスイッチについては,取り扱い可能な電力の増加とスイッチング速度の向上,バラクタについてはQ値と容量比の向上などが今後の課題とされています.
付録Aでは,スイッチ動作による相互変調ひずみを扱っており,付録BはRF MEMS用各種材料の特性表となっています.
水野皓司
東北大学電気通信研究所 テラヘルツ工学分野