フラッシュ・メモリの高速化技術と最新の不揮発性メモリの動向 ―― フラッシュの次を担うのは、フラッシュかそれとも...

柴田茂則,太田豊

tag: 半導体 電子回路

技術解説 2008年7月31日

(3)MRAM(強磁性体メモリ)

 MRAMはトンネル磁気抵抗効果(TMR)を利用した磁気メモリです.書き換え回数フリーで書き込み・消去速度が速く,DRAMやSRAMも置き換えることができる究極のユニバーサル・メモリとして早くから注目を集めてきました.耐放射線耐性が高いという特徴もあります.しかしながら現在出荷されているのは,2006年6月に販売が開始されたFreescale Semiconductor社の4Mビット品1品種のみです.価格も同容量のフラッシュ・メモリの20倍以上であり,量産状態にあるとはいえません.

 MRAMの大きな問題点の一つは,書き込み時の電流が1セルあたり数mA必要なことです.現在は図17のように金属配線に電流を流すことによってできる磁界を使ってTMR膜の磁化を反転させる方式(電流磁場書き込み方式)を採用しています.この方式でデータ・リテンション特性を保ちながらTMR素子を小さくすると,書き込み電流がTMR素子の寸法に反比例して大きくなるというスケーリング則が成り立ち,微細化の障害になっています.近年TMR膜に直接電流を流すことによって磁化反転させる方法(スピン注入磁化反転方式)が開発されています(8)

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図17(8) 電流磁場書き込み方式のMRAM
磁化の向きがそろっているときと逆向きのときで,絶縁膜を流れるトンネル電流の大きさが変化することを利用する.

(4)PRAM(相変化メモリ)

 PRAMはカルコゲナイドなどCDやDVDなどのディスクに塗布されている材料を使います.電流による発熱でアモルファス(非晶質)と結晶を相変化させて,そのときの電気抵抗の変化を利用したメモリです.図18の断面模式図は,Intel社が米国Ovonix社と開発したOUMメモリとして有名です.スイッチング特性を良くするために局所的な加熱が起こるように設計されています.ジュール熱により,素子の温度は500℃前後まで上昇します.

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図18(9) PRAMの断面模式図
電流パルスの大きさと時間で,結晶化させるかアモルファス(非晶質)化するかを制御する.

 スイッチングに必要な電流は数百μA~1mA程度と大きく,スイッチング速度とスイッチング電流はトレード・オフの関係になります.相変化という膜の構造変化が起こるため,書き換え回数フリーとはなりません.クロス・ポイント型にしたり,積層したりすることで低価格化が検討されています.

(5)ReRAM(抵抗変化型メモリ)

 ReRAMはスイッチング特性を持つ抵抗体を使ったメモリの総称で,多種多様な材質のメモリが研究されています.図19にReRAMの模式図と抵抗変化の様子を示します.動作原理は解明されていないことが多く,現在は研究の黎明期です.多くのメーカや研究機関で研究が始まっています.

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図19(10) ReRAMの模式図と抵抗変化
読み出しは抵抗が変化しない低い電圧をかけて電流を流す.

 OFF状態からON状態にするとき,ON状態からOFF状態にするときに,同一方向の電圧をかけるもの(ユニポーラ型)と,反対方向の電圧をかけるもの(バイポーラ型)があります.また,ON状態のときの電流が抵抗体の断面積に比例するもの(面導通型)と,断面積に比例しないもの(フィラメント導通型)があります.ビット線とワード線が交差する点に素子をおき,面積を縮小するクロス・ポイント型メモリを実現するためには,回り込み防止のためのダイオードが必要となります.

 ユニポーラ型が,微細化したときにも十分大きなON電流を確保するためには,フィラメント導通型が望まれます.しかし,多くのフィラメント導通型素子は,使用前に少し高い電圧をかけて導通路を作ってやるというフォーミング処理が必要で,この作業が量産時にどの程度問題になるかまだはっきりしていません.研究されている抵抗体として有名なのは,NiOやTiO2などの遷移金属酸化物です.これらの遷移金属酸化物のReRAMのスイッチング機構は,陽極酸化とジュール熱による還元といわれています.



参考・引用*文献
(1)Hung-Cheng Sung,Tan Fu Lei,Te-Hsun Hsu,Ya-Chen Kao,Yung-Tao Lin,and Chung S.Wang;"Novel Program Versus Disturb Window Characterization for Split-Gate Flash Cell",IEEE Electron Device Letters,vol.26,no.3,pp.194-196,Mar. 2005.
(2)*Nader Akil,Michiel van Duuren,Michiel Slotboom,Wilko baks,Pierre Goarin,Rob van Scaijk,Pablo G. Tello,and Roger Cuppens;"Optimization of Embedded Compact Nonvolatile Memories for Sub-100-nm CMOS Generation",IEEE Transactions on Electron Devices,vol.52,no.4,pp.492-499,Apr. 2005.
(3)Eil Lusky,Yoshi Shacham-Diamand,Gill Mitenberg,Assaf Shappir,Ilan Bloom,Boaz Eitan;"Investigation of Channel Hot Electron Injection by Localized Charge-Trapping Nonvolatile Memory Devices",IEEE Transactions on Electron Devices,vol.51,no.3,pp.444-451,Mar. 2004.
(4)Tetsuo Endoh,Kazushi Kinoshita,Takuji Tanigami,Yoshihisa Wada,Kota Sato,Kazuya Yamada,Takashiu Yokoyama,Noboru Takeuchi,Kenichi Tanaka,Nobuyoshi Awaya,keizou Sakiyama,and Fujio Masuoka;"Novel Ultrahigh-Density Flash Memory with a Stacked-Surrounding Gate Transistor(S-SGT)Structured Cell",IEEE Transactions on Electron Devices,vol.50, no.4,pp.945-951,Apr. 2003.
(5)Donghuwa Kwak,Jaekwan Park,Keonsoo Kim,Yongsik Yim,Soojin Ahn,et al.;"Integration Technology of 30nm Generation Multi-Level NAND Flash for 64Gb NAND Flash Memory",2007 Symposium on VLSI Technology,2-1,2007.
(6)Yu-Hsien,Chao-Hsin Chen,Ching-Tzung Lin,Chun-Yen Chang,Tang-Fu Lei,"Novel Two-Bit HfO2 Nanocrystal Nonvolatile Flash Memory",IEEE Transactions on Electron Devices,vol.53,no.4 Apr. 2006.
(7)Naoya Inoue,Naoya Furutake,Akio Toda,Munehiro Tada,and Yoshihiro Hayashi;"PZT MIN Capacitor With Oxygen-Doped Ru-Electrodes fro Embedded FeRAM Devices",IEEE Transactions on Elecrton Devices,vol.52,no.10,pp.2227-2235,Oct. 2005.
(8)日立,東北大学発表資料,http://www.riec.tohoku.ac.jp/activity/
pr/topics2006/oono070215/oono070215.pdf
,2007年2月8日.
(9)Agostino Pirovano,Andrea L. Lacaita,Fabio Pellizzer,Sergey A. Kostylev,Augusto Benvenuti,and Roberto Bez;"Low-Filed Amorphous State Resistance and Threshold Voltage Drift in Chalcogenide Materials",IEEE Transactions on Electroin Devices,vol.51,no.5,pp.714-719,May 2004.
(10)澤 彰仁;遷移金属酸化物による抵抗変化型不揮発性メモリー(ReRAM),応用物理,vol.75,no.9,pp.1109-1114,2006年9月.


しばた・しげのり,おおた・ゆたか
三洋半導体(株)
<著者プロフィール>
柴田茂則.1985年三洋電機入社.メモリやロジック・チップの設計・評価に従事.現在は三洋半導体LSI事業本部システムフラッシュ開発部所属.

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