フラッシュ・メモリの高速化技術と最新の不揮発性メモリの動向 ―― フラッシュの次を担うのは、フラッシュかそれとも...
表1は,種類によって異なった基準の読み出し速度で表示されているため,簡単には速度を比較できません.そこで,前述のアドレス・アクセス時間と,比較的大きな容量のデータ(2Kバイト)を連続して読み出す場合のデータ転送速度を計算して表2に示しました.また表2には消去時間と書き込み時間も示してあります.計算方法の詳細は,各メモリのデータ・シートのタイミング・チャートを参照してください.
表2から,NAND型フラッシュ・メモリのアドレス・アクセス時間がほかのNOR型フラッシュ・メモリと比較して長いのが明確に分かります.またNAND型フラッシュ・メモリは同時に多数のセルの消去・書き込みを行うため,消去・書き込み時間が短くなっています.このことから,NAND型フラッシュ・メモリは大容量が必要で書き換えが多く発生するデータ格納用途に,NOR型フラッシュ・メモリはあまり書き換えが発生せず,かつ高速なランダム・アクセスが必要なプログラム格納用途に適していることが分かります.
項 目 | アドレス・アクセス時間 | データ転送速度(2Kバイト) | 消去時間(1Mバイト) | 書き込み時間(1Mバイト) |
NAND型 (東芝:TC58NVG0S3AFT00) | 25.4μs | 129.2Mbps | 16ms | 152ms |
NOR型パラレル (Spansion社:S29GL032A) | 90ns | 178.1Mbps | 8000ms | 7967ms |
NOR型シリアル (STMicorelectronics社:M25P80) | 640ns | 74.7Mbps | 9600ms | 2735ms |
最近の高速フラッシュ・メモリ (三洋半導体:LE25FW808TT) | 130ns | 399.6Mbps | 1600ms | 1339ms |
NOR型パラレル・フラッシュ・メモリとNOR型シリアル・フラッシュ・メモリを比較すると,NOR型シリアルの方がアドレス・アクセスやデータ転送速度が遅くなっています.
最近では従来よりも高速なフラッシュ・メモリが登場してきました.例えば三洋半導体の高速シリアル・フラッシュ・メモリの場合には,NOR型パラレル・フラッシュ・メモリ以上の転送速度を実現していることが分かります.また消去・書き込み速度も,一般的なNOR型(パラレル,シリアルとも)に比較して大幅に速くなっています.これを可能にしている高速化技術について解説します.
2.フラッシュ・メモリの高速化技術
● フラッシュ・メモリの動作原理
まず電子機器の内部でソフトウェア格納用として一般的に使われるNOR型フラッシュ・メモリを中心に,動作原理について説明します.NOR型フラッシュ・メモリ,NAND型フラッシュ・メモリとも,現在市場に出ているフラッシュ・メモリの多くは絶縁膜(酸化膜:SiO2)に囲まれた電極(フローティング・ゲート;FG)内の電荷の量によってデータが確定するメモリ・セルを利用しています.
現在最も一般的に使われているスタック・ゲート型フラッシュ・セルを図4に示します.これはフローティング・ゲート内の電荷の量によって,MOSFETのスレッショルド電圧が変化することを利用したメモリ・セルです.フローティング・ゲートに電子が入って負に帯電すると,スレッショルド電圧が大きくなっていく様子を図5に示します.データを読み出すときにワード線にかける電圧を決めておくと,電荷の量によりセルを流れる電流が変化します.その電流をデータ"0"と"1"に対応させています.フローティング・ゲートは絶縁膜で囲まれているため,データ(電荷)は電源を切っても記憶されます.不揮発性メモリとして使うことができます.
フローティング・ゲートに電子を入れるには,ホットキャリアやFN(Fowler-Nordheim)トンネル電流が使われます.フローティング・ゲートから電子を引き抜くには,FNトンネル電流が使われています.