フラッシュ・メモリの高速化技術と最新の不揮発性メモリの動向 ―― フラッシュの次を担うのは、フラッシュかそれとも...
● スプリット・ゲート型セルによる書き込みの高速化
フラッシュ・メモリの書き込みの高速化を,セル技術の面から実現した例を紹介します.
FNトンネル電流によるデータ書き込みは,絶縁膜に高電圧をかけたときに流れる微小電流を利用しています.そのため電子をフローティング・ゲートに注入する場合に,msオーダの時間がかかります.
より速い書き込みを実現するためには,ホットキャリア注入が使われます.しかし通常のホットキャリア注入では,普通のMOSFETのようにドレインに近いところでホットキャリアが発生します.ドレインに近いところでは,チャネルの電位が高いため,発生した電子から見るとフローティング・ゲートの電位が低く見えます.そのため電子はフローティング・ゲートから反発力を感じることになります.
一方,ソースに近いところでホットキャリアを発生させると,電子から見たフローティング・ゲートの電位は高くなります.電子はフローティング・ゲートに引き付けられる方向に力を受け,書き込み特性が良くなります.このような書き込み方式は,ソース・サイド・ホットエレクトロン注入方式と呼ばれています.
ソース側でホットキャリアを発生させるためには,ソース側にオフセットを設けたり,選択ゲート・トランジスタを付けて電界が高い領域を故意に作ったりする必要があります.ここでは米国Silicon Storage Technology(SST)社型のフラッシュ・メモリ・セルを紹介します.これはスプリット・ゲート型セルと呼ばれているもので,等価回路は図6のようになります.スプリット・ゲート型セルに書き込むときの電子の流れを図7に,書き込み前後のスレッショルド電圧の変化を図8に示します.
図6 スプリット・ゲート型セルの等価回路
図7 スプリット・ゲート型セルのホットキャリアによる書き込み
図8 スプリット・ゲート型セルの書き込み前後のスレッショルド電圧
SSTスプリット・ゲート型セルは,ソース・サイド・ホット・エレクトロン注入を使っています.数十μsで書き込みが可能である上,一般的なスタック・ゲート型セルのホット・キャリア注入セルに比べ,書き込みに必要な電流を1/100程度にすることができます.ビット当たりの電流消費がホットキャリア注入方式としては少ないため,高電圧を供給する電流経路が容易に設計できます.高電圧の発生が容易で,少ない電流で同時に多ビットを書き込めます.
また,本セルを消去するときの電子の流れを図9に,書き込み前後のスレッショルド電圧の変化を図10に示します.このようにSSTスプリット・ゲート型セルを使って高速書き込みのフラッシュ・メモリを実現できます.そのほかに,表2の高速フラッシュ・メモリでは例えば,コマンド入力によりデータ出力ピンを1本から4本に切り替え,かつクロックの2倍の速度で読み出すことにより,データ転送速度を従来の8倍にする技術が使われています(図11).
図9 スプリット・ゲート型セルのFNトンネル電流による消去
ソース線を0Vにすることでフローティング・ゲートはソース線とのカップリングで低電位になる.その状態でワード線に高電圧をかけることにより,フローティング・ゲートから電子を引き抜く.
図10 スプリット・ゲート型セルの消去前後のスレッショルド電圧
図11 シリアル・モードと高速転送モードの切り替え
スプリット・ゲート型セルにはいろいろな種類があります(1).また上記SST社とは独立にベルギーIMEC(Interuniversity Microelectronics Center)やオランダNXP Semiconductor社,ドイツInfineon Technologies社なども図12に示すようなスプリット・ゲート型セルの研究発表を行っています(2).
図12(2) スプリット・ゲート型セルの種類