ヘッド・ハンターのつぶやき(1) ―― 半導体・家電企業リストラ時代の転職事情

米焼酎

 筆者は,人材紹介(いわゆるヘッド・ハンティング)のしごとに従事しています.マスコミによる最近のリストラの報道を見て,「日本のディジタル家電はもう消滅ですかね?」という話が出てくるようになりました.読者の中にも,こうした問題に関心のある方が多いことと思います.

 

コラム・連載「ヘッド・ハンターの視点」 バック・ナンバ
第1回 エンジニアの節目は32才と38才
第2回 あなたのキャリアは「生涯一技術者」? それとも...
第3回 面接の場での対話力
第4回 転職先の会社探し
第5回 求人スペックの重み
第6回 面接の回数と人数
第7回 プロジェクト・マネージャ職
第8回 人気の第2新卒

 

●期待は年が明けての円安

 100年に1度のリーマン・ショックが終わって,やっと立ち直ったのが一昨年(2010年).昨年(2011年)は東日本大震災,今年(2012年)は欧州債務危機・円高で,再度,谷へ落ちてしまいました.

 夏が過ぎたころから転職の相談がかなり増えており,半導体やディジタル家電の市場の景気後退を感じます.ハードルの高いピン・ポイントの求人はありますが,求人の数が少ない状況での転職相談,そしてアドバイスが続く毎日.頭の痛い年の瀬です.

 年が明けて円安となれば,企業の業績の回復とともに求人が増えると期待できます.あせらず春まで待つと,「きれいな桜が咲く」かもしれません.

 

●2~3年前とは転職の環境がかなり異なる

 日の丸半導体メーカや関西系の大手家電メーカなどのリストラの話を聞くたびに,どの時点で退職を決断するのが妥当かを考えてしまいます.転職希望者の方からは,「残るのも大変ですが,出るのも大変ですか? リストラの発表を重ねるごとに割増退職金は減っています.職場の雰囲気は悪く,閉塞感が強い.前回応募していれば,と後悔してもはじまらないし.経営陣は投資家が大切で,社員への通知はメールだけ.新聞を見て初めて自分の会社のリストラの話を知ったときは,ガッカリしました.会社って冷たいですね」という声を聞いています.

 一昨年,さっさと会社に見切りをつけて転職された方々は,元気に活躍中です.当時は「求人は多くて求職者が少ない」という,転職に有利な状況でした.選択肢も数多くあって,転職活動をポジティブに展開できました.

 しかし現在は,「求人は少なく,求職者はものすごく多い」という,転職活動に不利な状況です.選択肢を増やすにも,大変な努力と時間がかかります.世の中の風を読んで景況感と求人情報を手に入れ,転職をポジティブに進めて決断することが大切でしょう.風を読むには,業界内外の人脈のネットワークが大切です.例えば,半導体設計ツールの業界(EDA業界)はM&A(企業の合併と買収)が日常茶飯事のことですから,いつも人材が流動しています.この業界の人々は日々の人脈作りに努力されていますから,見習って行動してください.

 3年前のリーマン・ショックのときにもリストラ旋風が吹き荒れていましたが,当時はメーカの関連会社や外部の開発受託会社,いわゆる外注先の会社がリストラ・倒産していました.今回は外注元となるメーカのリストラです.前回の転職対象は30歳台の人が中心で,異業種への転職が可能でした.今回は45~55歳で,異業種への転職は条件面で難しさがあります.例えば「半導体一筋30年」のエンジニアともなれば,そのスキルは相当なもの.経験を生かさないともったいないです.

 会社経営に興味があれば起業も可能で,困難に立ち向かうエネルギーがあればベンチャ企業への転職も視野に入ります.でも,今は誰もが突然のリストラで右往左往しているので,エネルギーを蓄えるにはもう少し時間がかかるかもしれません.

 

●産業構造の転換が起こっても半導体は重要な構成要素

 あるセミナで,著名人の方が「一国の盛衰は半導体にあり」と熱く語っていました.元気の出る言葉です.「後ろ向き」,「厳しい」と日本の半導体・家電メーカのトップの方はおっしゃいます.しかし今は大きな転換点.大きなパラダイム・シフトが半導体業界で起こっているのですから,現状に落胆せず,将来に向かって歩もうではありませんか.

 1980年代のメインフレームからパソコンへ,現在のガソリン車から電気自動車へ,といった技術の変遷は,さまざまな分野で発生しています.この中にあって,半導体はいつも重要なシステムの構成要素なのです.

 世界規模で見ると,米国Intel社や米国Qualcomm社は日本企業に投資する余力を持っています.ファウンドリ各社も次世代技術に向けて積極的に投資しています.ファブレス化で遅れをとった日本だけが低迷し,工場の数を減らしたり,資金を外部調達したりしないと事業を継続できない状況に陥っています.これからは,IDM(垂直統合型デバイス・メーカ)からファブレスへ移行する大きな転換期で,これはある意味,チャンスだと思います.

 ルネサス エレクトロニクスは「みんなのルネサス」を選んでとりあえずの危機を乗り切りました.このことにガッカリしたのは筆者だけでしょうか? ハゲタカ・ファンドは怖いけれど,大きな改革を進めてほしかったと思います.製造プロセスや要素技術の研究・開発に満足しているのではなく,システムへの応用を見据えることが突破口となります.システム技術やソフトウェア技術を駆使して応用を考えるには,「自前」ではなく「連携」によって最新の技術を組み合わせることが必要です.

 パソコンやワークステーションからスマートフォン,ディジタル家電,自動車へのシフトに20年余りかかりました.これからはクラウド対応で進歩する通信・ネットワーク技術,応用分野としてはスマート・エネルギーやディジタル・ヘルスケア,グリーン・デバイスといったキーワードでしょうか? デバイスとソフトウェアを組み合わせて最適なソリューションを作り上げられるエンジニアは,これから20年活躍できます.

 大変革の時代を乗り越え,自信を持って,「やっぱり強い日本」を皆さんで作りましょう.

 

 

こめじょうちゅう

 

 

●筆者プロフィール
米焼酎(ペンネーム).35年前,F-8,8080,Z-80マイコンと出会い,半導体業界にあこがれて二つの外資系半導体メーカを経験.今は,人材コンサルタントとして活動中.話をするのが好きで,焼酎があるとお尻に根が張って何時までも飲む癖がある.

 

 

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