車載マルチメディア・ネットワーク「MOST」の設計ノウハウ ──ロバスト性の高いシステムを構築するためのハード/ソフト開発術
4.自動車以外の分野へも展開
現在のMOST対応システムのほとんどには,NICというプロトコル・チップが組み込まれています.このチップは基本的にデータリンク層の処理しか扱っておらず,別途ネットサービスというソフトウェアをマイクロコントローラ上で動作させる必要があります.このため,MOST装置を設計する際に,次のような問題が生じます.
- ネットサービス自体の実装が必要になる
- 装置メーカごとにネットサービスの実装方法が異なると,相互接続性が悪くなる
NICの後継となるINIC(Intelligent Network Interface Controller)チップでは,タイミング的に厳しいネットサービスの処理の大部分がチップ内で実行され,マイクロコントローラとの接続はネットサービスより上位のメッセージ・ベースのインターフェースですむようになります.これは,MOSTシステムを設計するうえでソフトウェアの開発リソースをよりアプリケーション側に集中できるというメリットと,MOST装置どうしの相互接続性を高めることができるというメリットを持っています.
また,現在のNICでは,ストリーム・チャネルのアクセスは比較的容易ですが,実際にハードウェアを設計するうえでは,高速なパケット転送を実現するための付加回路が必要になります.INICでは従来のI2SやI2Cバスの接続に加えて,MediaLB(Media Local Bus)2)というボード向けの新しいバス接続に対応しており,ストリーミング・データとともにパケット・データを高速に転送しやすくなります.
MOST用のNICがこのように使いやすくなることで,MOSTシステムの採用が加速され,自動車だけでなく,さまざまなアプリケーションで利用されるようになると筆者らは考えています(コラム1「自動車以外のMOSTアプリケーション」を参照).たいせつなことは,そのような場合でもアプリケーション・レベルで資源を再利用できるようにして,ソフトウェア,ハードウェアともに現在のMOSTシステムを設計するときのノウハウをむだにしてはならないということです.
参考・引用*文献
(1) 大木紳一,「情報系車載ネットワーク・プロトコル『MOST』」,『Design Wave Magazine』,pp.40-46,2002年12月号.
(2) MediaLB Revision 1.0仕様書,http://www.oasis.com/support/ downloads/ics/MediaLB_SPEC_1V0-00.pdf
おおき・しんいち
Oasis SiliconSystems(株)
◆著者プロフィール◆
大木紳一.いくつかの半導体メーカを経て,2002年4月からOasis SiliconSystems社で技術サポートを行っている.