代替現実,透明プリウス,人型入力デバイスなど,新しいヒューマン・インターフェースの応用事例が一堂に ―― デジタルコンテンツEXPO 2012

北村 俊之

tag: 組み込み

レポート 2012年10月31日

 2012年10月25~27日の3日間,日本科学未来館(東京都江東区)にて,「デジタルコンテンツEXPO 2012」が開催された.本展示会は,コ・フェスタ(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)2012のオフィシャル・イベントとして,ディジタル・コンテンツの分野にかかわる研究者やクリエイタ,企業関係者などが集まり,ディジタル・コンテンツ産業の将来像を描き出す国際的イベントとなっている.ディジタル・コンテンツは,ゲームやアニメなどの産業を発展させただけでなく,芸術表現の場として新たな文化を生み出してきた.

 主催は経済産業省と一般財団法人 デジタルコンテンツ協会

 

●過去と現実が継ぎ目なしに切り替わる「代替現実」を実現

 理化学研究所 脳科学総合研究センター 適応知性研究チームは,被験者に気づかれずに,あらかじめ用意した過去の映像を現実の視覚と差し替える「代替現実(SR:Substitutional Reality)システム」のデモンストレーションを行った(写真1).本システムでは,認知的な継ぎ目なしに過去の映像を与えることで,過去と現実の境界をなくし,すべてを目の前で起きていることのように錯覚させることに成功している.

 

写真1 理化学研究所 脳科学総合研究センター 適応知性研究チームの「代替現実システム」

 

 

 被験者はヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)とヘッドフォンを装着し,2種類のシーンを体験する.一つは,HMD上に取り付けられたカメラからリアルタイムに送られてくるライブ映像,もう一つは被験者がいる場所であらかじめ撮影され,編集された過去の映像である.これらの映像を切り替えることで,被験者に,過去の映像をまるで目の前で起きている"現実"のように錯覚させることができる.あらかじめ記録し編集しておいた過去の出来事を,今まさに目の前で起きている"現実"であると被験者に信じさせることも,それに疑いをもたせることも可能となっている.

 本システムを用いることで,これまで技術的に困難だった認知・心理実験が可能となり,心理療法への応用や新しいヒューマン・インターフェースへの展開を検討しているという.

 

●光学迷彩技術を応用してクルマの後部座席を透明化

 慶応義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 稲見研究室は,ドライバから見て後部座席が透明になる試作車「透明プリウス」を展示した(写真2写真3).本システムでは,光学迷彩の技術をハイブリッド車「プリウス」に適用することで,ドライバは後部座席があたかも透明になったかのように車両後方を見ることができる.これにより,通常では死角となって見えない部分にある障害物などを確認できるようになり,車両後方の視認性が向上する.

 

写真2 慶応義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 稲見研究室の「透明プリウス」

 

 

写真3 「透明プリウス」の車体後部に取り付けたビデオ・カメラ

 

 

 車両周辺環境の安全性を確保するという課題に対して,周辺映像を車内の小さなモニタに表示するのではなく,ドライバが周囲を見渡し,周辺環境を実際に存在する位置に実寸大で視認できるようにした.車体後方の背景を投影するカムフラージュ技術を応用しており,車体後部に取り付けたビデオ・カメラで車体後方の風景を動画撮影し,その映像を車内に取り付けたプロジェクタとハーフ・ミラーを通して後部座席に投影している.後部座席の投影面には,再帰性反射材で作られた多数のビーズが織り込まれたシートが設置されている.

 再帰性投影技術(RPT:Retro-reflective Projection Technology)は,仮想世界を現実世界に重ねて提示する拡張現実(AR:Augmented Reality)を実現する技術の一つで,コンピュータ・グラフィックス(CG)などで作られた物体が現実に存在するかのように感じられる,人間の体を透明にするなど,さまざまな可能性が期待されている.

 本システムは,Innovative Technologies特別賞のIndustry部門を受賞した.

 

●3Dキャラクタを操作するための人型入力デバイスを展示

 セルシスソフトイーサビビアンの3社は,3Dキャラクタを操作するための人型入力デバイス「QUMARION(クーマリオン)」を展示した(写真4).本入力デバイスを利用することで,誰でも3Dキャラクタのポーズ付けやモーションの作成が行える.首,肩,ひじ,手首,腰,ひざ,足首など,関節内部の16カ所に32個のセンサを内蔵している.これらの関節を動かすと,USBケーブルを介してパソコンにセンサ情報が伝送される.

 

写真4 セルシス,ソフトイーサ,ビビアンの「QUMARION(クーマリオン)」

 

 

 本入力デバイスは,自由に結合できる関節センサ,関節センサからの信号を集約し多重化してパソコンに伝送するハードウェア,およびファームウェアから構成される.関節を自由に組み合わせられるため,人型に限らず,さまざまな動物(ラクダ,ヘビなど)の形状に合わせた構成を実現できる.3社は今回の技術を「QUMA」と呼んでいる.モーションのフレーム速度は120フレーム/s.角度センシング誤差は±2.0%.外形寸法は290mm×108mm×308mm(腕を左右に広げた状態),重さは255g.

 3D編集ソフトウェアのCGキャラクタに任意のポーズを取らせることも可能.人の動きを再現し,違和感のない自然なポーズを取らせることができる.中性的なフォルムなので,男女どちらの3Dキャラクタにも対応する.デザインはアクション・フィギュアの原型師である浅井 真紀氏が担当した.センサ技術はソフトイーサとビビアンが開発した.

 本入力デバイスには,イラスト作成ソフトウェア「CLIP STUDIO PAINT PRO」,モーション作成ソフトウェア「CLIP STUDIO ACTION」,キャラクタ編集ソフトウェア「CLIP STUDIO COORDINATE」が付属する.いずれのソフトウェアもWindows XP/Vista/7,Mac OS Xに対応する.また,Autodesk Maya用とAutodesk 3ds Max用のプラグインが提供される.さらに,手の交換パーツ(2種類),専用工具,USBケーブル,専用スタンドなども付属する.

 

1  2  »
組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日