歴史的に初めて時速100kmを達成した伝説のEV「ジャメ・コンタント」を再現 ―― 日本EVクラブがキット化,組み立てセミナを開催

Tech Village編集部

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2013年3月25日

 CQ出版社では,昨年(2012年)から発売している「CQブラシレス・モータ&インバータ・キット」のモータを使って動かす「EVミニカート・キット」を開発中で,今春の発売を目指している.このEVミニカートは,きわめてプリミティブな構造となっている.また,キットのポイントは,モータのコイルをどのように巻くのか,インバータをどのように効率よく駆動するのか,を学ぶ教材にもなるものだ.

 一方,日本EVクラブの「ジャメ・コンタント・オマージュII」は,それとはまったく狙いの異なるEVキットである.ここでは,日本EVクラブが開催した「ジャメ・コンタント・オマージュII」の組み立てセミナについて報告する.

 

●100年前のEV「ジャメ・コンタント」の話

 歴史上,最初に時速100kmを超えた乗り物はEV(電気自動車)だった,ということをご存じだろうか? スピードを追い求めたくなるのは,古今東西,人間の本性なのかもしれない.まず最初に,自動車とEVの歴史を少しだけ振り返ってみたい.

 世界最初の自動車は,1769年にフランスで開発された「キュニョーの砲車」(蒸気機関で駆動)だといわれている(写真1).この1769年は,英国の産業革命の象徴でもあるワットの蒸気機関が発明されたのと同じ年で,フランス革命(1789年)の30年も前のことだ.

  フランス革命後しばらくして,パリは国際都市に進化していた.19世紀末には約10年に1度の頻度でパリ万国博覧会を開催するなど,刺激的な文化都市だったのである.エッフェル塔がフランス革命100周年を記念して建設されたのは1889年だ.

 

写真1 世界最初の自動車「キュニョーの砲車」(パリ工芸博物館にある2号車)

 

 

 

 自動車の歴史の初期は,なぜかフランスが主導していたように見える.1898年,フランスの自動車雑誌がスピード・コンテスト(1kmのコース)を実施すると発表した.その第1回コンテストに勝利したのは,ジャントー社製のEVに乗ったフランス貴族のローバ伯爵だった.速度は63km/hで自転車の55km/hを超えて勝利した.当時,ペダル/チェーンや空気入りタイヤの登場など,自転車も革命的に高速化しており,自動車と自転車のどちらが速いかが,賭け(?)の対象となっていた.

 このニュースを聞いたベルギー人の土木技師ジェナッツィは,自分ならもっと速く走らせられると考えた.1899年1月,ジェナッツィは,米国ベーカー社製のEVに改良を加えて67km/hを達成する.しかしローバ伯爵もすぐに改良して93km/hを達成,記録は再び更新された.ジェナッツィはあきらめず,同年4月には車体を砲弾のような流線型に改造して挑戦,106km/hを達成した(写真2).人類初の100km/hを超えた自動車が誕生した瞬間でもあった.このクルマの名を「ジャメ・コンタント(La Jamais Contente)」という.フランス語で「決して満足しない」を意味する.この時代,自動車の最先端はEVにあった.

 

写真2 ジャメ・コンタント号

 

 

 

 ちなみに,ガソリン車がドイツのベンツによって発明されたのが1885年.ライト兄弟がはじめて空を飛んだのが1903年,米国のフォードがガソリン車T型フォードを発売したのが1908年.そして,1909年には,フランス人のビクタ・ヒメリーが,ベンツが製作した200馬力のガソリン車に乗って227km/hを達成した.当初EVは,このようにガソリン車や飛行機よりも歴史があるのだが,あっという間に時代は移り変わることになる.

 そして100年以上が経過した現在,再びEVに復興の兆しが見えてきた.

 

●日本EVクラブの「ジャメ・コンタント・オマージュII」

 人類最初に100km/hを超えた「ジャメ・コンタント」に敬意を表し,「ジャメ・コンタント・オマージュ」と称したマイクロEVを2011年に日本EVクラブが製作した(写真3).角型パイプによるフレーム構造で,リチウム・イオン電池とブラシ付きモータを採用していた.おもしろいのは,左右の前輪について同時にトー・イン角90°に設定できたということ.つまり,左右の前輪が「ハ」の字となり,それぞれ独立駆動する左右の後輪を外に逆回転させると,後輪軸を中心に「超信地旋回」ができた.デモ走行ではこれが大いに受けていた.また,ナンバ・プレートをもち,公道も走れた.

 

写真3 2011年11月のEVフェスティバルでデモ走行するジャメ・コンタント・オマージュ

 

 

 2012年,日本EVクラブは,それを改良した「ジャメ・コンタント・オマージュII」をキットとして台数限定で発売すると発表した.同年10月の「EVフェスティバル」ではモノコック構造となり,より洗練された試作車がデモ走行を行った(写真4).残念ながら超信地旋回はできないが,量産して希望者に販売するということで,大いに注目されていた.

 

写真4 2012年10月のEVフェスティバルで公開されたジャメ・コンタント・オマージュIIの試作車

 

 

 今年に入ってジャメ・コンタント・オマージュII(以下,ジャメ号という)の購入者に対する組み立て実習セミナがいよいよ始まると,日本EVクラブから編集部に連絡があった.完成品を販売するのではなくて,あくまでキットを販売する.EVを楽しみながら作り,同時にEVの原理と構造を楽しく学び,最後に乗って楽しもう,というコンセプトなのだろう.このクルマもナンバ・プレートを取得できる.魅力的だ.ただし,価格は255万円(講習会費用込み)だ.トヨタ車体の超小型EV「コムス」などと比べても高い.メーカがすべて製造し,購入者は乗るだけ,の大量生産品とはコンセプトが異なる.「すべてのパーツを一から組み立てることで,EVを深く理解したい」という思いをもつ人が購入するのだろう.それはどういう人たちなのだろうか?

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日