480Mbpsでデータを転送するUSB2.0のプリント基板設計 ――In-System Design社が示す設計ガイドライン
Column1 USB 2.0にはコモンモード・チョークは通用しない?
コモンモード・チョークは差動信号のノイズや不要輻射,静電気放電を改善するための電子部品です.USBは差動信号を利用するため,コモンモード・チョークは最適だろうと思いがちですが,USBの信号は完全な差動型ではないことを忘れてはいけません.
例えば,フルスピードでのEOPにおいては,D+もD-も"L"になります.ですから,コモンモード・チョークを付けるとEOPを崩してしまう可能性があります(図A,図B).ハイスピードの場合,パケットとパケットの間のIdle状態は,D+とD-が"L"であることによって定義されます.ですから,コモンモード・チョークによって,パケットの最初の部分も最後の部分も崩してしまうことがあります.
また,ハイスピード対応の周辺機器はデータ転送速度が12Mbpsと480Mbpsであり,幅の広い周波数で動作しなければなりません.コモンモード・チョークを使用するのであれば,USB2.0の動作周波数や信号をしっかりと考慮したうえで設計してください.そうしないと,コモンモード・チョークは思ったような効果をあげることはないでしょう.あるいは期待していたのとは正反対の効果となってしまうかもしれません.
USB2.0の広い周波数帯域に対応するコモンモード・チョークは存在しますが,残念ながらその能力はかなり弱いので,ノイズや不要輻射,静電気放電の改善については,期待していた効果が出ないことが多いのです.
〔図A〕コモンモード・チョークの影響(その1)
コモンモード・チョークは,たとえハイスピードにおけるノイズ抑制能力が優れていても,フルスピードでジッタを生じる.チョークを取り外すと,ジッタは消滅した.
〔図B〕コモンモード・チョークの影響(その2)
この図は,図Aの元の信号波型からEOP部を取り出したものである.問題となる部分を丸い点で示している.この場合もチョークを取り外すと,認定評価テストに合格した.