Ethernetケーブルを家電に転用,家庭内ネットワークの新方式「HDBaseT」に注目 ―― 2013 International CES

松本 信幸

tag: 組み込み 実装

レポート 2013年1月23日

 2013年1月6日~11日,米国ネバダ州Las Vegasにて,家電機器に関する技術展示会「2013 International CES」 が開催された.International CESでは毎年,家電機器間を接続する家庭内ネットワークとその対応製品によるデモンストレーションが行われ,注目を集めている.ここでは家庭内ネットワークの新技術として広まりつつある「HDBaseT」に関する展示を紹介する(写真1).

 

写真1 2013 International CESにおけるHDBaseTの展示

※ 以下の写真をマウスでクリックすると拡大します

 

 

●HDBaseTはプロトコルの名前ではなく商標

 「HDBaseT」という名称を見たときに最初に思い浮かべるのは,IEEE 802.3,いわゆるEthernet技術ではないだろうか.つまり10Base-Tや100Base-TXなどの延長上にある規格ではないか,とイメージするのではないかと思う.

 結論から言えば,HDBaseTはIEEE 802.3とは関係がない.HDBaseTの実現手法を見てみると,IEEE 802.3で培われた技術をふんだんに流用してはいるが,IEEE 802.3のWebサイトを調べても,HDBaseTの情報は見つからない.しかも,HDBaseTはプロトコルを示す名称ではなく,商標であるため,最後に「TM」が付く.

 

●5種類の信号や情報を伝達できる5Playリンク

 HDBaseTによって実現できる機能を「5Play」という表現で表すことがよくある.これは「HDMIベースの映像信号」,「音響信号」,「100MbpsのEthernet情報」,「機器制御信号」,「電力」の5種類を伝達できる,という意味である.これらは,10Base-T系のEthernetインターフェースと同じように,RJ-45コネクタを用いたUTPケーブルで伝達される.

 使用できるUTP(非シールドより対線)ケーブルは,Cat5e(カテゴリ5e)以上のもので,Cat5(カテゴリ5)は使用不可である.これはHDBaseTで用いる搬送波としての信号周波数が250MHzであるため,125MHzまでしか対応できないCat5では力不足なためである.250MHzの信号を多値情報で変調し,UTPケーブルに用意された四つのペアすべてを使用することによって,10Gbpsの情報伝送を実現している.ただし双方向で10Gbpsを実現しているわけではない.いわゆる非対称(Asymmetric)型で,映像情報を必要とするダウン・ストリームは10Gbpsだが,アップ・ストリームは映像と音響を除いて200Mbpsとなっている.

 なおUTPケーブルの最大長は,Ethernetと同じく100mまで使用可能.中継装置を用いた場合はさらに延長が可能である.中継装置は最大8ホップまで設置でき,情報伝送としての最大距離は900mに及ぶ.

 

●今回は変換用機器の展示が多かった

 HDBaseTを用いたネットワークの構成は,スター型もしくは複数段によるツリー型となる.すでにHDBaseTによるスイッチも開発されており,2013 International CESではパソコンなどを用いたデモンストレーションも行われていた(写真2).

 

写真2 HDBaseT準拠のスイッチ

 

 

 HDBaseTに対応した機器が順次市場に出てきているとはいうものの,展示会場で見た限り,その多くは「変換用機器」であり,HDBaseTのインターフェースを標準で備えた機器は多くない.例えば,ブースに展示されていた韓国Samsung社の「Single Wire TV」は急きょ改造したものであり,正式な製品ではなかった(写真3写真4).

 

写真3 HDBaseTで接続されたSamsung社のモニタ

 

 

写真4 Samsung社のモニタの裏面



 

 

 

●電力供給能力はPoEを上回る100W程度

 HDBaseTで伝送できるものの一つに電力がある.電力供給のメカニズムは,おおむねIEEE 802.3af/at,いわゆるPoE(Power over Ethernet)の技術を流用していると言ってよい.供給できる電力の形態はPoEと同じ直流48Vで,RJ-45の持つ四つのペアのそれぞれが約25Wまで供給できるようになっている.つまり,合計でおよそ100Wを供給できる.

 電力の供給方向は選択可能となっており,ダウン・ストリームに電力を重畳して,コンセントが不要なテレビを実現することも可能だし,逆に,モニタ側に電源を用意したうえで,アップ・ストリームに電力を重畳して監視カメラを駆動するという運用も考えられる.

 

●テレビ・モニタやレコーダ,家庭用プロジェクタが対象

 HDBaseTは家庭内ネットワークのための伝送技術だが,対象としているのは電力監視などを行う,いわゆるHEMS(Home Energy Management System)系ではなく,エンターテインメントを目的とするAV機器である.つまり,テレビ・モニタやレコーダ,家庭用プロジェクタなどがHDBaseTにつながる.

 実際,日本の企業でもパナソニックやソニーといったAV機器メーカがHDBaseTを採用した機器を製造している(写真5).ただし,それらの製品を見ても,インターフェース部分に「HDBaseT」の文字はなく,現状では「Digital Link」などの表現が記載されている.

 

写真5 パナソニックのHDBaseT対応プロジェクタ

 

 

●参考URL
(1) HDBaseTのWebサイト,http://www.hdbaset.org/

 

 

まつもと・のぶゆき
NTTデータ先端技術(株)

 

 

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